金融商品で資産運用を行うならNISA(一般NISA)を使うメリットは大きい。ただしデメリットも知っておく必要がある。キーワードはNISAの非課税期間が終了する「5年後」だ。また新NISAで非課税期間などがどう変わるのかについても解説しよう。
1.NISA(一般NISA)とは?つみたてNISA(積立NISA)とどう違うのか
以下の表は、一般NISAとつみたてNISAの違いをまとめたものだ。
一般NISA | つみたてNISA | |
---|---|---|
非課税期間 | 最長5年 | 最長20年 |
買い付け可能期間 | 2023年まで | 2037年まで |
非課税投資枠(年間) | 120万円(2016年以降) | 40万円 |
対象商品 | 上場株式、投資信託、 ETFなど |
投資信託、ETF (要件を満たすものに限定) |
商品の購入方法 | スポット購入、積立購入 | 積立購入 |
ロールオーバー | 可 | 不可 |
利用対象者 | 20歳以上の日本の居住者 |
一般NISAとつみたてNISAの違いを解説しよう。
NISA(一般NISA)とつみたてNISA(積立NISA)の非課税期間と非課税投資枠の違い
一般NISAの非課税期間は最長5年、買い付け可能期間は2023年までで、非課税投資枠は年間120万円(合計600万円)だ。
一方、つみたてNISAの非課税期間は最長20年と長く、買い付け可能期間は2037年までで、非課税投資枠は年間40万円(合計800万円)。
短期~中期の投資なら一般NISAが、長期の投資ならつみたてNISAが適しています。
NISA(一般NISA)とつみたてNISA(積立NISA)で購入できる商品の違い
一般NISAの対象商品は以下のとおりだ。
・証券取引所に上場している株式、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)など
株式、ETF、REITは、海外の証券取引所に上場している商品も対象。
これらは、NISA口座以外の通常の口座で取引することになる。
つみたてNISAでETFを取り扱う金融機関は限られており、銘柄数が少ない。
NISA(一般NISA)とつみたてNISA(積立NISA)の購入方法の違い
一般NISAでは、スポット購入と積立購入を選択できる。
一方、つみたてNISAの購入方法は積立購入のみ。
ただし、つみたてNISAは、金融機関によっては定期的な積立購入に加えて、ボーナス月の増額購入も可能です。
ロールオーバーはNISA(一般NISA)のみで利用可能
2. NISA(一般NISA)の2つのメリット 非課税、国内株式取引手数料の優遇
株式や投資信託などの取引は、一般的に課税口座(特定口座または一般口座)で行われる。
それらの商品を一般NISAで取引するメリットは何だろうか。
NISA(一般NISA)のメリット1……売却益(譲渡益)や配当・分配金が非課税
株式や投資信託などを課税口座で取引した場合の利益には、約20%の税金がかかります。
売却益・配当・分配金は、NISAで購入してから非課税期間内に発生した場合に非課税になります。
NISAのメリット2……NISAは国内株式の取引手数料が無料のネット証券が多い
主要ネット証券5社で、NISA口座と課税口座の国内株式取引手数料を比較してみよう。
「約定(売買)ごと」と「一日定額」を選択できる場合は、一日定額の手数料で比較する。
NISA口座 国内株式 取引手数料 (一日定額の場合) |
課税口座 国内株式 取引手数料 (一日定額の場合) |
|
---|---|---|
SBI証券 | 無料 | 無料 (約定金額100万円/日まで) |
楽天証券 | 無料 | 無料 (約定金額100万円/日まで) |
松井証券 | 無料 | 無料 (約定金額50万円/日まで) |
マネックス証券 | 無料 | 500円(税込550円) (約定金額100万円/日まで) |
岡三オンライン証券 | 無料 (約定金額100万円/日まで) |
無料 (約定金額100万円/日まで) |
多くのネット証券では、NISA口座での国内株式取引手数料は無料だ。
課税口座の国内株式取引手数料の無料化も進んでいるが、1日の約定金額の上限が設けられている。
なお、課税口座での約定ごとの国内株式取引手数料は一般的に有料であるため、ここでは取り上げていない。
3,NISA(一般NISA)の2つのデメリット 5年後の非課税期間終了時に注意
非課税期間終了時に考えるべきデメリットは次の2つだ。
- 損益通算ができない
- 非課税が終了したときに元本が切り下げられる可能性がある
ここでいうデメリットとは「NISAを使うことによって、結果的に納める税金が増えてしまう」という意味です。
NISA(一般NISA)のデメリット1……損益通算ができない
確定申告により損益通算すれば、利益から損失を差し引けるので、結果的に税金額を減らせます。
損益通算は以下の計算式を使って計算する。 ※ただし分配金や配当金などのインカム・ゲインを加えると複雑になるので、ここでは売却益(キャピタル・ゲイン)のみとする
出典:金融庁『NISAの概要』
NISA(一般NISA)のデメリット2……5年後の非課税期間終了時に元本が切り下げられることがある
一般NISAの非課税期間は5年間だ。
含み損が出ている状態で一般NISA の非課税期間が終了すると、年末時点の時価でNISA口座から課税口座に移管され、年末時点で決済したのと同じことになる。
売却せずに、非課税期間が終了する2021年末に100万円に時価が下落したとする。このまま課税口座に移管されると、元本(課税口座での取得価額)は100万円に切り下げされる。仮に1年後の2022年末に元の購入価格である120万円に戻ったとしても、ここで売却すれば20万円(約定価格120万円-元本100万円)に対して税金がかかる。
一般NISA のデメリットというよりも、「リスク」という表現のほうが適切かもしれません。5年後に価格がどうなっているかは、誰も分からないからです。
4. NISA(一般NISA) はロールオーバーで損益の確定を先延ばしできる
また、一般NISAからつみたてNISAへ変更していたり、金融機関を変更したりしている場合はロールオーバーができないので注意しましょう。
出典:金融庁『NISAの概要』
5.NISA(一般NISA)は5年後、「売却」「移管」「ロールオーバー」どの選択肢がベストか
一般NISAの5年間の非課税期間が終了するときに選択肢は3つある。
- 非課税期間終了前の売却
- 課税口座への移管
- ロールオーバー
どれを選ぶべきだろうか。
⑴非課税期間終了前に売却したほうがいいケース
売却するなら、課税口座の年間収支などを考慮してNISAの非課税期間が終了する前に実施するようにしましょう。そうすれば、翌年のNISA非課税投資枠で別の商品を購入することも可能です。
⑵課税口座へ移管したほうがいいケース
一般NISAの非課税期間が終了した金融商品は、ロールオーバーの手続きをしないと自動的に課税口座へ移管される。
課税口座への移管では、特定口座があれば特定口座へ、特定口座がなければ一般口座へ移される。
これに対して特段手続きは不要である。
一般NISAのメリットであるインカム・ゲインやキャピタル・ゲインを期待できない株や投資信託を保有しているときも、課税口座への移管を選んでいいでしょう。
課税口座へ移管される際は、NISAの非課税期間終了時点の時価が課税口座での取得価額になる。
移管後に売却するときは、移管時の取得価額に対して課税される。
課税口座へ移管した場合も、売却と同様に翌年のNISA非課税投資枠には別の商品を購入できる。
⑶ロールオーバーしたほうがいいケース
株の配当や投資信託の分配金により利益を得ている場合や、今後も株価や基準価額上昇が期待できる場合は、ロールオーバーして非課税期間を5年間延長するのもありです。仮に120万円で購入した金融商品が値上がりしても、一般NISAでは全額をロールオーバーできます。
ただしロールオーバーするということは、翌年のNISA非課税枠を消費することになる。
一般NISAで他の金融商品を買う予定があるのなら、購入予定金額によっては売却か課税口座への移管を選んだほうがいい。
ロールオーバーはNISA口座の金融機関へ申し込みが必要です。金融機関によっては、11月末が申込期限の場合があるため前もって準備しましょう。
6.NISA(一般NISA)を利用する場合の3つの注意点
NISAを利用する際は「NISAの非課税投資枠が再利用できないこと」と「取引ごとの受渡日の違い」に注意しよう。
⑴NISA(一般NISA)の非課税投資枠は再利用できない
NISA口座で保有する商品はいつでも売却可能だが、一年に投資できる非課税枠の上限は年間120万円までである。
⑵年末のNISA(一般NISA)の取引は受渡日に注意
年末に買付注文を出して約定日が年末であっても、受渡日は翌年の年始になることがある。
この場合は、翌年のNISAの非課税投資枠で買付したことになる。
国内株式の受渡日は約定日の2営業日後だ。
出典:SBI証券『株式の約定日と受渡日とは何ですか?』
2020年の年末の最終受渡日は12月30日(水)だったので、2020年の非課税投資枠での買い付けは2営業日前12月28日(月)の約定までの取引が対象であった。
仮に2020年12月29日(火)に買い付け注文が約定していたら、受渡日は翌年2021年1月4日(月)だ。この場合は、2021年の非課税投資枠を消費する。
投資信託の約定日から受渡日までの日数は、商品によって、また外国株式の場合は国によって異なります。投資信託や外国株式の日数は、必ずNISAを利用する金融機関のホームページなどで確認しましょう。
⑶NISA(一般NISA)の非課税期間である5年が終了する年の受渡日に注意
NISAの非課税期間が終了する5年目の年末に売却するときにも注意が必要だ。
課税口座へ移管されると、年末時点の時価が課税口座での取得価額になる。
特定口座への移管であれば、その取得価額を元に譲渡損益が計算される。
このように、約定日が非課税期間内であっても、非課税期間終了直前の約定で受渡日が年をまたぐと、課税対象になることがあるので気を付けましょう。
7. NISA(一般NISA)は制度変更により2024年から新NISAに
NISAは少額からの投資のためにスタートした制度だが、株式の短期売買での利用などがあり税制優遇に対する批判の声もあったためだ。
現行の一般NISAと新NISAを比較し、表にまとめた。
現行NISA(一般NISA) | 新NISA(2024年から) | |
---|---|---|
非課税投資枠 | 年間120万円 (2015年以前は年間100万円) |
2階:年間102万円 対象商品は現行NISAと同様だが、 レバレッジ型の投資信託などを除外 |
1階:年間20万円 対象商品はつみたてNISAと同様 |
||
NISAでの 買い付け 可能期間 |
2023年まで | 2028年まで |
つみたてNISA への移行 |
不可 | 1階のみ非課税期間(最長5年) 終了後に可能 |
新NISAの非課税投資枠は最大で年間122万円に
現行の一般NISAの非課税投資枠は、年間120万円(2016年以降)。
非課税投資枠が2階建てになると、1階部分はつみたてNISAと同様の非課税投資枠になり、2階部分は現行NISAと同様の非課税投資枠になる。
制度変更により、非課税投資枠の1階部分では年間20万円、2階部分では年間102万円まで投資できるようになります。合計は122万円と、変更前の120万円より若干増額されます。
新NISAでの買い付け可能期間は2028年まで5年間延長される
NISAで買い付けた商品の非課税期間は最長5年間であり、現行NISAでの買い付け可能期間は2023年までだった。
現行NISAでは2018年に買い付けた商品を2023年の非課税投資枠へロールオーバーできるが、制度変更に伴うロールオーバーの正式な情報は発表されていません。新NISAで2024年以降もロールオーバーが可能になれば、2028年までロールオーバーができることになります。
新NISAの1階部分の対象商品はつみたてNISA(積立NISA)と同様になる
1階部分は、非課税期間(最長5年)終了後につみたてNISAへ移行できる。
2階部分は、現行NISAと同様に上場株式などへも投資できる。
ただし、レバレッジ型の投資信託や株式のうち、整理銘柄・管理銘柄は対象外になる。
2階部分の非課税投資枠は年間102万円であり、株式の購入に限ると18万円(=120万円-102万円)の減額になる。
株式やETF、REITに投資する人は、この減額を残念に思うかもしれない。
一方で、投資信託の積立購入を組み合わせて投資する人にとっては、非課税投資枠が120万円から合計122万円へ若干増額されるため、制度変更を受け入れやすいでしょう。
8.NISAの制度変更によりNISAの株と投資信託の投資比率を再考したい
NISAに限らず、投資での金融商品を選ぶ時には「安全性」「流動性」「収益性」の3つのポイントで整理し比較する。
安全性とは投資した元本や利子の支払いが確実に行われるか、流動性とは必要な際にすぐ換金できるか、収益性とは期待できる収益は大きいかを表す。
株の安全性は、会社の破綻などによる投資元本の減額を考えておきたい。
流動性については比較的換金しやすいこと、収益性は大きな利益を得る可能性があるかどうかだ。
NISAにおける株と投資信託への投資比率では、安全性よりも収益性を優先するなら株の比率を上げる。
収益性よりも安全性を優先するなら、投資信託の比率を上げる。
NISAの制度変更により、1階部分ではつみたてNISAと同様に株式投資信託の購入が必要になる予定です。この変更に合わせて、2階部分での株と投資信託の投資比率を再考しましょう。
9. NISA(一般NISA)のデメリットも理解して真剣にお金と向き合おう
NISAをきっかけにして、資産運用に興味を持つようになった人もいるだろう。
もともと投資になじみのある人にとってはメリットの大きい制度だ。
ただし、デメリット(リスク)もあり、絶対に儲かるものではないことも頭に入れておかなくてはなりません。簡単ではないからこそ、お金と真剣に向き合う良い機会になるでしょう。
NISAについてよくある5つのQ&A
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