投資による資産運用では、1つの通貨や国だけで運用せず分散させることが成功のコツとされている。外貨運用の種類には普通預金、定期預金、FX(外国為替証拠金取引)、外貨建て保険などさまざまある中、外貨建て投資信託は分かりやすさにおいて比較的ハードルが低い。ここでは、米ドル建て投資信託に焦点を当て、メリットとデメリットを解説する。

1,米ドル建て投資信託とは?外国投信との違い

外貨建て投資信託とは、米ドルやユーロなど円以外の通貨で取引されている投資信託のことだ。米ドル建て投資信託は、取引通貨に米ドルが指定されている外貨建て投資信託だ。

投資信託の基準価額や分配金は外貨で表示され、取引には米ドルが必要になる。米ドル用の普通外貨預金口座あるいは外国証券取引口座を開設して円を米ドルに替え入金する。もともと保有していた米ドルを移すことも可能だ。

外貨建て投資信託と外国籍投資信託(外国投信)との違い

外貨建て投資信託と外国籍投資信託を混同するケースが多いので整理しておこう。外貨建てとは購入や売却が外貨ベースで行われるという意味で、値札のようなものだと考えればよい。「100米ドルの商品を100米ドルで買う」イメージだ。

一方、外国籍投資信託は海外で組成・運用されている投資信託のことだ。「MADE IN ○○」がどこであるかを意味する。外貨建てもあれば円建てもある。国内投資信託には外貨建てはほぼ見られないため、外貨建て投資信託は外国籍投資信託(外国投信)だと考えてよい。

つまり外貨建て投資信託とは、日本において海外製品を外国通貨で購入する行為なのである。

米ドル建て投資信託の投資対象地域は北米だけではない

米ドル建て投資信託だからといって米国だけを投資対象にしているわけではない。対象地域は北米など個別国から先進国・新興国・グローバルと広範囲だ。中には日本を投資対象としているものもある。日本にいて海外企業が設定した日本企業に投資する投資信託を外貨で購入するのだからなかなか興味深い。

資産カテゴリーも多種多様で、株式や債券が主だが、不動産(REIT)やコモディティなどを対象とするファンドも存在する。

2,米ドル建て投資信託の2つのメリット

外貨取引の代表的な通貨はなんといっても米ドルだ。世界の為替取引量の88%は米ドルが占める。新興国通貨の勢いが増してきているとはいえ、いまだ世界の基軸通貨は米ドルである。米ドルで投資信託を買うメリットとは何か。

メリット1,為替差益が狙える(円安の場合)

投資信託の収益には基準価額の変動に伴う売却益と各ファンドに設定された分配金があるが、外貨建て投資信託の場合それらに加えて為替差益も狙えるというメリットがある。投資信託に組み入れた外貨建て資産の通貨が、購入時よりも対円で高く(円安)になれば、円ベースでの資産価値が上がる為替差益が得られる。1ドル100円が120円の円安ドル高になった場合、円ベースでの利回りは単純計算で20%になる。

メリット2,通貨リスクの分散になる

投資においてリスクを分散させることは重要だが、これは通貨に対しても言える。保有資産のすべてが円建てだと、円の価値が目減りすることで相対的に資産全体の価値が低下してしまう。しかし資産の一部を外貨建てで保有しておくと、円安はプラス要因となるため、資産の目減りを相殺できる。

3,米ドル建て投資信託の3つのデメリット

では、投資信託の取引を米ドル建てで行うことのデメリットは何だろうか。

デメリット1,為替差損が発生する(円高の場合)

外貨建て投資は、円高になると為替差損の原因となる。投資信託に組み入れた外貨建て資産の通貨が、購入時よりも対円で安く(円高)になれば、円ベースの資産価値が下がって元本が目減りしてしまう。1ドル100円が80円の円高ドル安になった場合、円ベース利回りは20%マイナスだ。基準価額の変動による値上がり益が得られても、為替差損によってトータルでマイナスになる可能性もある。

デメリット2,為替手数料が発生する

外貨建ての金融商品を利用するときは「為替手数料」を考慮したい。ニュースなどで耳にする為替相場は銀行間取引のレートで、個人が外貨建て投資を行う際に適用されるレートでは手数料が上乗せされている。

円→外貨の交換レートは「TTS(Telegraphic Transfer Selling rate)」、外貨→円の交換レートは「TTB(Telegraphic Transfer Buying rate)」と呼ばれる。

イメージとしては、銀行間レートが1ドル120円の場合、TTSが121円、TTBが119円と、利用者に不利なレートが適用されており、この差分が手数料だ。あらかじめ外貨を保有しており、投資信託売却後も外貨で保有する場合はこの為替手数料は不要だが、現在円しか保有しておらずかつ最終的には円に戻したいと考えている場合は、為替手数料を十分考慮する必要がある。

デメリット3,運用手数料が高め

たとえば野村証券で扱っている外国籍投資信託のうち純資産価格が高い「ABインターナショナル・テクノロジー・ポートフォリオ」の場合、購入時手数料が最大で純資産価格×5.5%、信託報酬は年率1.20%、それ以外にも保管報酬や管理事務代行報酬の名目で純資産総額の1%以内の手数料が発生する。

国内投資信託にはインデックス型をはじめとして購入時手数料無料で信託報酬も0.1%を切るようなものが出てきているため、外貨建て投資信託は比較的コストが高めであることを念頭に入れておくと良いだろう。

4,投資信託における「為替ヘッジ」とは?「あり」と「なし」はどちらが有利?

為替変動リスクを回避する方法として、「為替ヘッジ」がある。外貨建て資産への投資は為替変動の影響を受けるため、購入時よりも円高に振れると利益を目減りさせる。為替ヘッジありの商品を選ぶことによって為替変動の影響を抑えることができるが、先物取引や信用取引を利用するため相応のヘッジコストが発生する。為替ヘッジの「あり」と「なし」では投資家が支払う信託報酬に違いはないが、ヘッジコストがかさむと投資信託の運用成績を圧迫する原因となる。

ヘッジコストは交換する通貨との金利差が大きいほど高くつく。コロナショック以来、米国は低金利政策に転じたためヘッジコストは低下傾向にある。つまりコストをあまりかけずリスクを減らせる状態だが、実際には純資産総額が高いファンドには為替ヘッジなしの商品が多い。

円安局面では為替ヘッジなしのほうが資産の値上がりに加えて為替差益も得られるが、ドル円相場は2016年末から2021年1月にかけてゆるやかな円高が続いたのち、2021年1月時点で1ドル=104円だった相場が4月には108円と急激に円安に振れるなど、予測が難しい。

今後円安になるという確信があるのであれば為替ヘッジなしの商品でも良いだろうが、為替のリスクを少しでも減らしたいならヘッジありの商品も検討に値するだろう。その際、通貨間の金利差によるヘッジコストの変動にも注意が必要だ。

5,米ドル建て投資信託の運用がおすすめな人

メリット・デメリットが交錯する米ドル建て投資信託だが、運用に向いているのはどのような人だろうか。

使い道のない米ドルを保有している人

何らかの理由で米ドルを保有している人の多くは外貨預金を利用しているだろう。しかし外貨預金は為替リスクがあるにもかかわらずリターンがあまり期待できない。円預金口座よりはマシだが、個人向け外貨預金口座の金利は高くても0.02%程度だ。

どうせ元本割れのリスクを負うなら投資信託でより高いリターンを得たいと考える人にとっては、米ドル建て投資信託が選択肢のひとつになる。すでに米ドルで保有しているため、外国証券取引口座に入金する際に為替手数料を支払わなくても済む。

まとまった資産のほとんどが日本円の人

少ない手持ち資金をあえて米ドルに替える必要性は低いが、まとまった資金をすべて日本円で保有している場合は、リスク分散の意味から一部を外貨に換えても良いかもしれない。金利や話題性にひかれて新興国の通貨に手を出す前に、比較的安定性のある米ドルで外貨運用のノウハウを習得するのが常道だろう。

6,米ドル建て投資信託で運用するなら相場のチェックは必須

米ドル建て投資信託は、通貨リスクの分散や為替差益のチャンスを得るのに役立つ。ただし同時にコスト増と為替差損を伴うことを忘れてはいけない。

市場全体の動きと連動するインデックス型投資信託とは異なり、「ほったらかし」には適さない。為替相場や金利相場のニュースにアンテナを張る習慣がある人におすすめしたい。

篠田わかな
執筆・篠田わかな
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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