投資信託の収益には値上がり益と分配金がある。値上がり益は購入単価から上昇したか下落したかで判断できるが、分配金は受け取ったお金が収益になるとは限らない。投資信託の分配金を正しく知るためにも、その仕組みを理解しうまく活用していこう。

目次
1,投資信託の分配金とは
2,投資信託の2種類の分配金
3,投資信託の分配金は受け取りあり・受け取りなしを選択できる
4.投資信託の分配金を受け取る3つのメリット
5.投資信託の分配金を受け取る3つのデメリット
6.分配金の出る投資信託の注意点
7.投資信託の分配金はありとなしどちらを選ぶべき?

1,投資信託の分配金とは?いつ支払われる?

そもそも投資信託の分配金とは、どのような仕組みなのだろうか。

投資信託の分配金の仕組み

投資信託は不特定多数の投資家から資金を集めて運用しており、その資金のことを信託財産と呼ぶ。信託財産は投資信託の運用方針により、株式や債券などに投資される。その運用収益を保有口数に応じて、運営会社が投資家に支払うものが「分配金」と呼ばれるものだ。

分配金はいつ支払われる?

分配金は投資信託の財産内容を明らかにする決算日に支払われる。毎月決算の投資信託もあれば1年ごとに決算する投資信託もあるので、目論見書を確認したい。

分配金の支払日と基準価格の関係

分配金は投資信託の信託財産から支払われるため、分配金が支払われた後は信託財産の時価評価である純資産総額が減少し、通常1万口当たりの純資産総額を表す基準価額も下落する。分配金と基準価額の関係は、一般的に以下のようになる。

決算日における投資対象資産と分配金の関係 基準価額
値上がり益と分配金が同水準 変わらない
値上がり益より分配金が多い 下落
分配金より値上がり益が多い 上昇
値上がりせず分配金が支払われる 下落
(※筆者作成)

 

投資信託の分配金は、基準価額の下落要因になるということは知っておきたい。投資信託の投資対象資産は債券のように金利収入を得られるものもあるが、その場合は分配金の水準に比べて金利収入が高いか低いかで基準価額への影響度が異なる。

2,投資信託の2種類の分配金――普通分配金と元本払戻金の違いは?

投資信託の分配金が支払われても、すべてが利益として受け取れるわけではない。分配金には普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2種類があり、個別元本を上回って支払われた分配金かどうかで異なる。

個別元本とは?

個別元本とは投資家ごとの取得元本のことで、申込手数料や消費税は含まれない。買付が1回のみなら購入時の基準価額が個別元本となり、複数回買い付けた場合は購入時の基準価額や買付口数によって個別元本が修正される。

普通分配金:分配金を出した後(分配落ち後)の基準価額>個別元本

分配落ち後の基準価額が個別元本を上回る部分が普通分配金となる。普通分配金は収益を還元しており、課税扱いになる。

元本払戻金:分配金を出した後(分配落ち後)の基準価額<個別元本

分配落ち後の基準価額は、個別元本を下回る部分が元本払戻金(特別分配金)となる。元本払戻金(特別分配金)はその名の通り元本を取り崩しているだけであり、非課税扱いになる。投資元本が払い戻されれば、その分個別元本も下がるというわけだ。

分配金と個別元本の関係性

個別元本は投資信託を追加購入したときだけではなく、元本払戻金(特別分配金)が支払われたときも修正される。分配金が1,000円出る投資信託を基準価額1万円で購入するとして、その後の分配金と個別元本の関係を確認してみよう。

基準価額 分配金(1,000円) 個別元本
(分配落ち後)
普通分配金 元本払戻金
購入 1万円 1万円
第1期決算 1万2,000円 1,000円 0円 1万円
第2期決算 9,800円 0円 1,000円 9,000円
第3期決算 9,600円 600円 400円 8,600円
第4期決算 1万1,000円 1,000円 0円 8,600円
(※筆者作成)

 

第3期決算を例にすると分配前の個別元本は9,000円で基準価額は9,600円のため、個別元本を上回る600円分は普通分配金、下回る400円分は元本払戻金(特別分配金)だ。元本払戻金(特別分配金)が出た分だけ個別元本も引き下がる。

同じ分配金でもその意味は異なるため、投資信託の分配金を受け取ったら金融機関のマイページや報告書で確認してみよう。

3,投資信託の分配金は受け取りあり・受け取りなしを選択できる

投資信託の分配金の種類について説明をしてきたが、分配金はそもそも受け取るか受け取らないかを購入時に選択できる。

受け取らない場合は分配金をその投資信託の再投資に回すことになる。投資信託は購入時に手数料がかかるものもあるが、分配金の再投資においては手数料をかけずに投資可能だ。そのため、手数料分だけ自分で投資するより安く買える。しかし普通分配金の場合、それに対しては課税されるため全額が再投資されるわけではないことは知っておきたい。

分配金を再投資すれば、収益が収益を生んでくれる複利効果を効かせやすくもなるため、受け取る必要のない人は再投資に回すといいだろう。

4,投資信託の分配金を受け取る3つのメリット

投資信託の分配金を受け取る選択をした場合、どのようなメリットがあるのだろうか。

メリット1,分配金で利益の確保ができる

投資信託の分配金は元本の払い戻しになることもあるが、運用がうまくいっていればその間の利益を分配金として確保することも可能だ。

もし分配金を再投資したまま運用が悪化すると投資資金の全額が損になってしまうため、一部でも利益確保しながら運用したい場合に分配金の受取を活用できる。ただし運用が常にうまくいくとは限らず、単なる元本払戻金(特別分配金)として受け取る可能性もあることは認識しておきたい。

メリット2,クッション効果が期待できる

投資信託の分配金を定期的に受け取っていると、経済環境の悪化や円高などで基準価額が下落しても損失を和らげる効果がある。分配金は受け取る期間が長いほど積み上がっていくため、相場が下落したとしてもリターンを下支えするクッション効果が働きやすくなるからだ。

例えば外国債券は為替変動に影響を受けるが、国内債券より高金利であり定期的な金利収入を得ることでリスクをある程度吸収できるようになる。仮に2%の金利が付く債券であれば、5年で投資金額の10%分の収益を得ることになり、その分為替変動に影響を受けにくくなる。

投資信託の分配金は金利とは異なるが、長期間保有することで分配金が積み上がり価格変動に強くなる点は同じだ。とはいえクッション効果を十分に働かせるには時間が必要であり、投資信託の長期保有を前提にすることは押さえておこう。

メリット3,運用しながら定期的に現金を受け取れる

年金を受け取る世代になると、手元資金を運用しながら少しずつ取り崩していきたいと考える人もいるだろう。運用しながら取り崩せば資産寿命を伸ばすことができ、長生き時代にもマッチした戦略といえる。例えば1,000万円を運用しながら毎月5万円ずつ取り崩した場合は約16年7ヵ月で使い切るが、運用も平行すれば以下のように受取期間を伸ばせる。

運用利回り 受取期間
0% 16年7ヵ月
1% 18年2ヵ月
3% 23年1ヵ月
5% 35年10ヵ月
(※モーニングスターの計算ツールより筆者作成)

 

運用しながら定期的に自動売却してくれるサービスも少しずつ増えてきたが、どこの金融機関でも行っているわけではない。自分で売却するのも手間がかかるため、分配型の投資信託を活用するのも1つの方法だ。毎月分配型のように定期的に現金が入ってくる投資信託を持てば、自動売却サービスのような仕組みも作れ、単に取り崩すだけよりも資産寿命を伸ばせる可能性がある。

注意したいのは、分配金は必ず決まった額が出るわけではないことだ。運用状況により分配金の引き上げや引き下げがあったり、出なかったりすることもある。分配金は自分でコントロールができないため、それを当てにして生活するスタイルは避けたほうが無難だろう。

5,投資信託の分配金を受け取る3つのデメリット

投資信託の分配金を受け取るデメリットもある。

デメリット1,分配型の投資信託は基準価額が下落しやすい

投資信託は運用が好調であれば基準価額の水準を維持しながら分配金を出すこともできるが、運用資産を取り崩していることに変わりはない。普通分配金であっても元本払戻金(特別分配金)であっても、分配金を支払えばその分純資産は減少するため基準価額は下落しやすい。毎月分配型のように分配頻度の高い投資信託や分配金の高い投資信託ほどその傾向がある。

そのため分配型の投資信託を購入するときは、値上がりを期待して買うよりも基準価額が一定の水準で推移することや下落しながらも分配金を受け取ることを想定して投資するほうがいいだろう。基準価額の上昇を狙うなら、なるべく分配金を出さない投資信託のほうが適している。

デメリット2,運用効率が分配金なしに比べて低下する

分配金を出さない投資信託は、株式や債券に投資した運用収益を分配金として支払わず運用に回していく仕組みになっている。得た収益を運用に回しさらに収益を生む現象を複利と呼び、運用効率を高められる投資方法だ。

一方、分配型の投資信託は運用収益を投資家に還元するため、複利効果が働きにくい。運用効率の面でいえば、分配金を出す投資信託のほうが不利になる。運用資産を膨らませていくには分配金を出さない投資信託のほうが向いているため、何を重視するかを考えて投資信託を選ぼう。

デメリット3,普通分配金に課税される

元本払戻金(特別分配金)なら全額が再投資されるが、普通分配金の場合は課税されてしまう。一方で分配金を出さない投資信託は、その税金分だけ多く投資に回せるため複利効果が高くなる。

分配金を再投資するにしても、純資産を増加させることを考えれば分配金を出さない投資信託のほうが有利だ。

6,分配金の出る投資信託の2つの注意点

分配型の投資信託はメリットとデメリットを理解してうまく活用してほしいが、購入する際は以下の2点に注意しよう。

注意点1,投資信託の分配金は変動する

投資信託の分配金は、利息のように金額が決まっているわけではない。投資信託ごとに分配方針があり、運用会社が分配金の金額を決めている。そのため、運用状況により分配金の金額が上がることもあれば下がることもある。運用状況によっては分配金が全く支払われないこともある。

毎月分配型の投資信託では、分配金の引き下げがよく見られる。信託財産から毎月分配金を出さなければいけないため、運用資産が減りやすいためだ。分配金の還元額以上に収益を稼げていれば問題ないが、そうでなければ基準価額は下落していき分配金を引き下げざるを得ないこともある。

ただし分配金の引き下げが必ずしも悪いことではない。分配金を減額するということは投資家に還元する金額を抑えて、その分を運用に回すことでもある。分配金の引き下げによって運用効率は上昇するため、分配金が減額されたからといって心配しすぎる必要はないだろう。

過去の分配金の実績は投資信託の運用報告書や月報で確認できるほか、運用会社のホームページでも閲覧できる。分配頻度の高い投資信託は、過去の実績を確認しておこう。

注意点2,投資信託は分配金を含めたトータルリターンを見る

投資信託の分配金を受け取っていると利益が出ていると勘違いしてしまう人もいる。分配金はあくまでも信託財産を取り崩して投資家に支払っているだけで、必ずしも利益ではないことは忘れないようにしよう。投資信託の利益が出ているかどうかは、トータルリターンで確認することが重要だ。トータルリターンはそれまで受け取った分配金を含めた損益のことで、以下のように計算できる。

トータルリターン=評価金額+累計の受取分配金額+累計の売付金額−累計の買付金額

投資信託の損益を確かめるときは、常にトータルリターンで確認しよう。時価評価が下がっていても分配金を含めれば利益が出ていることもあるからだ。トータルリターンは自分でも計算できるが、金融機関のマイページから簡単に確認できるようにもなっている。特に分配頻度の高い投資信託は、トータルリターンの確認が必須である。

7,投資信託の分配金はありとなしどちらを選ぶべき?

投資信託は分配金の出るものと出ないもの、どちらを選べばいいのかは投資の目的を考えればわかりやすい。

これから資産形成をしていく30代や40代などは定期収入もあり、分配金を受け取る必要性は低いはずだ。その場合は分配金の出ない投資信託を選び、将来のために運用資産を増やすことが重要になる。

それに対して年金を受け取り、セカンドライフを送る世代は、それまでに蓄えた資産や退職金を上手に使っていくことを考える必要がある。そのためには分配金の出る投資信託を活用し、運用しながら取り崩していくことを選択肢に入れてもいいだろう。

要するに、自分の投資目的を達成できる方法を選ぶことが大事である。投資信託の特徴をよく理解して、目的達成のためにどのように活用すればいいのかを考えよう。

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國村功志
執筆・國村功志
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも開催。CFP®、証券外務員一種保有。
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®、証券外務員一種保有。

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