投資信託の利回りは誰もが気になるところだ。しかしどの数字を見ればよいのか分からない人も多いだろう。投資信託の利回りは預金の利息とは性質が異なる。投資信託の利回りの目安を示すとともに、シミュレーションを用いて、積立投資信託の利回りについても解説する。

目次
1.投資信託の利回りとは?利率との違い
2.投資信託の「想定利回り」の目安
3.利回りで注意すべき2つのこと
4.20年運用した場合をシミュレーション
5.積立投資をする上で一番大切なこと

1.投資信託の利回りとは?利率とはどう違うのか

投資信託で「どのくらいの収益を見込めるのか」を知るために必要な用語をおさえておこう。

投資信託の2つの収益

リターンを表す言葉の中で混同されがちなのが「利率」と「利回り」だ。「利率」は銀行預金の利息などによく使われる。当初設定された「金利」の元本に対するパーセンテージが「利率」だ。投資信託には当初から設定された金利はない。しいて言うと分配金の利回りがそれに当たる。投資信託の収益には値上がり益(キャピタルゲイン)と配当収入(インカムゲイン)の2種類があり、分配金はインカムゲインだ。

キャピタルゲインに該当するのは何か。答えは「騰落率」だ。騰落率とは、投資信託の値段である基準価額が一定期間でどのくらい変動したのかをパーセンテージで示した数字である。基準価額1万円の投資信託が1年で1万100円まで値上がりした場合、騰落率は1%だ。

投資信託の利回りに該当するもの

では投資信託における「利回り」とは何を指すのだろうか。証券会社や金融情報サイトでは「トータルリターン」という用語がよく使われる。トータルリターンは騰落率に加え分配金や手数料も加味した総合的な利益を表している。投信の販売会社は投資家に対してトータルリターンを通知する義務があり、モーニングスターやQUICK資産運用研究所といった金融情報サイトでも掲載されているため、確認するのは個人投資家にもたやすい。利回りという言葉が見当たらない場合は、「リターン」や「トータルリターン」で探してみるといいだろう。

2.投資信託の「想定利回り」の目安

投資信託はどのくらいの利回りを期待できるものなのか。

投資信託と他の金融商品との比較

投資信託以外の金融商品ではどのくらいの利回りが見込めるのか。代表的なものを以下にまとめた。

普通預金(都市銀行)……0.001%
普通預金(ネット銀行)……0.001%~0.20%
定期預金(都市銀行)……0.002%
定期預金(ネット銀行)……0.02%~0.20%
個人向け国債……0.05%

低金利政策の影響とはいえ、かなり低い利率しか期待できないことが分かる。普通預金だと100万円預けても、1年で10円にしかならない。ネット銀行には利率の高いところがいくつか見られるが、残高や取引内容に条件付きであることが多い。とはいえ、上記金融商品はすべて元本保証タイプだ。リスク商品である投資信託の利回りと単純に比較することはできない。

投資信託の利回りのはかり方

投資信託のリターンは市場の動向に大きく左右されるため、毎年何%の利回りといった約束された数字はない。新聞や目論見書などに掲載されているパフォーマンスはすべて過去実績に基づくものである。それでも、銘柄選びにあたっては重要な参考情報となる。

投資信託の利回りを決める要素は次の3つだ。

  • 騰落率(基準価額)
  • 分配金
  • コスト(手数料、税金)

    まず、基準価額の値動きが安定して上昇していることが重要だ。短期の騰落率ランキングで上位に挙げられるような銘柄は、変動が激しいおそれがある。

    投資信託の分配金も一定に支払われていることが望ましい。ある年は大盤振る舞い、別の年は無配では収益を見込むことができない。

    元本を取り崩さない健全な分配金であることも要確認だ。投資信託のコストについては、税金はどうにもできないが、手数料の安さはトータルリターンに直接影響すると考えていい。

    これらの3点を満たす投資信託はパフォーマンスに優れているといえる。

投資信託の投資資産ごとの目安になる利回り

投資信託の利回りは投資する資産の種類(アセットクラス)によって平均利回りが大きく異なる。アセットクラスとは、投資対象が国内株式なのか海外株式なのかといった違いのことだ。インデックス型の投資信託は特定の株価指数に連動するものが多く、株価指数の過去データを参照すればおおよその平均利回りを推測できる。千葉銀行の試算によると、それぞれのアセットクラスの投資信託を過去20年間運用した場合の税引き後の平均利回りは以下のようになっている。

  • TOPIX(国内株式)……1.17%
  • MSCI World Index(先進国株式)……2.19%
  • MSCI Emerging Markets Index(新興国株式)……3.10%
  • S&P500(米国株式)……3.26%
  • MSCI ACWI Index(全世界株式)……3.05%

    カッコ内は該当するアセットクラスを示す。アセットクラスが複数あるバランス型や、特定の指標に連動しないアクティブ型の投資信託は試算から除外されている。株式中心のインデックス型投資信託がベンチマークによって利回りにどのような差が出るか、参考になるだろう。

    驚くべきことに、20年の間にはリーマンショックなど大きな市場変動もあったにもかかわらず、いずれの指数もプラス利回りとなっている。実績データに基づく予測なので今後の運用益を保証するものではないとはいえ、前出の預金金利とはけた違いに利回りが高い。

3.投資信託の利回りで注意すべき2つのこと

投資信託の利回りは高く見えるが、単純にリターンが高い銘柄が優れているとは言い切れない。

高利回りの投資信託はリスクとコストが高め

極端にリターンの高い投資信託はリスクも高いという特徴がある。各種投信ランキングでリターン上位に入るような銘柄は、新興国の中小株式や金などの先物、不動産などに特化したものが多い。これらの投資信託は1年で20%を超えるリターンをたたき出すこともあるが、逆に30%を超える損失を出すこともある。

リスクとは不確実性のことであり、値動きの激しい銘柄はリスクが高いともいえるのだ。値動きのブレを表す標準偏差という指標を見れば、リスクの度合いがはかれる。そしてハイリスクハイリターンであるほど、販売手数料や信託報酬は高めだ。

投資期間により利回り実績は大きく異なる

短期では高い利回りが見込めそうでも、長期ではマイナスとなることもしばしばある。トータルリターンは1年・3年・5年・10年単位で表示されるので、自身の投資期間に合わせ、投資信託の実績を確認するのがいいだろう。一般的には長期になるほど投資信託のリターンは安定する。

同じ10年でもどの期間を切り取るかによっても結果は変わってくる。たとえば2009年の欧州債務危機や2020年の新型コロナウイルス感染症流行など、世界的な市場の冷え込みを対象期間に含むとリターンは大きく押し下げられる。占いとまではいわないが、過去実績に基づくリターンはあくまでも目安にとどめたい。

4.積立投資信託を20年運用した場合を想定利回りでシミュレーション

積立投資信託は、毎月、毎週など一定期間ごとに自動的に投資信託の買い付けをおこなう投資方法だ。少額から始められ時間的リスク分散ができるメリットがある。少しずつ投資して運用するため最終的にいくら積み立てられるのかイメージしにくいが、インターネット上には投資計画をシミュレーションできるツールが多く公開されているので活用したい。

投資信託の最終積立金額をシミュレーションするには、「毎月の投資金額」・「想定利回り(年率)」・「積立期間」といったパラメーターの設定が必要だ。ひと月の投資金額と積立期間は資金が必要となるライフイベントに合わせて設定すればよいが、問題は想定利回りだ。想定利回りはこちらの希望的観測ではなく、現実的に期待できる水準で設定したい。

平均利回りのわずかな違いで最終積立金額に大きな差が出る

先ほどの想定利回りを使用し、月々3万円を20年間(元本720万円)積立投資した場合、それぞれのアセットクラスでは最終的にどのくらいの積立金額になるのか、運用イメージを示したものが次だ。

  • 国内株式(1.17%)……810万7,706円
  • 先進国株式(2.19%)……902万4,435円
  • 新興国株(3.10%)……995万7,397円
  • 米国株式(3.26%)……1,013万3,886円
  • 全世界株式(3.05%)……990万3,041円

    平均利回りのわずかな違いが、最終積立金額に大きな差を生むことが分かる。国内株式のみが対象の投資信託だと運用収益は100万円に満たないが、米国株式連動型だと280万円のプラスになる。国内株式と先進国株式の最終積立金額に90万円もの差があることを考えると、利回り1%の違いがいかに大きいか実感できるだろう。

    月3万円20年間の積立投資は、利回りが年率3.14%を超えれば1,000万円貯まる。ひとつの目安として覚えておきたい。

積立投資で資産増に必要なのは「利回り」よりも「投資額」

積立投資でいつまでにいくら貯めたいという目標がある場合、最終的な資産を増やすには「利回りの高い商品を選ぶ」か「毎月の投資額を増やす」しかない。しかし、利回りの高い投資信託をそう簡単に見つけられるのなら誰も苦労しない。先ほどの積立金額の予測もリターンを保証するものではなく、いつマイナスに転じてもおかしくないのが投資の世界だ。

実は、リターンを重視するより投資額を増やすほうが確実に資産形成できる。月々の投資額を少し増やす効果は侮れないのだ。たとえば、月3万円・利回り3%、月3万5,000円・利回り2%でそれぞれ20年間運用したシミュレーション結果は以下のようになる。

月3万円・利回り3%……最終積立金額:984万9,060円
月3万5,000円・利回り2%……最終積立金額:1,031万7,889円

そもそも、利回りは不確実性の高い要素だ。高利回り商品はそれだけマイナスになるリスクをはらむことを意味する。一方で投資額はわずかな追加で確実に資産を増やすことにつながる。目標額を増やしたい場合は、まずは投資額の見直しをおこなうのがいいだろう。

5.投資信託で積立投資をする上で一番大切なのは「継続すること」

積立投資は少ない投資額で気軽に始めることができる。しかも、投資金額はいつでも変更することができ、iDeCoと違って引き出すのも簡単だ。しかし、積立投資の複利効果、リスク分散効果を最大限に生かすためには、何と言っても続けることが最も重要である。

投資信託を積立購入する場合は、一度設定したあとしばらく忘れているくらいがちょうどいい。市場の浮き沈みに左右されずじっくり取り組めるのが大きなメリットだ。

積立投資で大きなリターンを得ることができたとしても、運用益の20.315%を税金で持っていかれることに納得がいかない人もいるだろう。その場合はつみたてNISAを活用してはどうだろうか。つみたてNISAは特定の投資信託から得られる分配金や譲渡益が最長20年間非課税になる制度だ。投資額に上限があるのが残念だが、銘柄が低コスト低リスク商品に限定されているため、初心者でも安心して活用できる。
出典:金融庁『つみたてNISAの概要』

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篠田わかな
執筆・篠田わかな
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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