iDeCo(個人型確定拠出年金)とつみたてNISAは、どちらも少額ずつ積み立てながら節税ができる制度だ。しかしiDeCoは個人年金、つみたてNISAは長期分散投資のためにあり、仕組みや税制に違いがある。どちらの節税効果が高いかだけでなく、自分に必要なのはどちらかを見極めることが大切だ。

目次
1.iDeCoとつみたてNISAを6つのポイントで比較
2.節税効果なら「iDeCo」
3.現金化のしやすさと安全性なら「つみたてNISA」
4.初心者にも選びやすい商品が多いのは「つみたてNISA」
5.iDeCoとつみたてNISAの優先度は年齢と収入次第
6.iDeCoとつみたてNISAは併用できる
7.自分の状況に合うほうを選択しよう

1.iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)を6つのポイントで比較

iDeCoとつみたてNISAには以下の3つの共通点がある。

  • 毎月一定額を積み立てていく
  • 運用益が非課税になる
  • 長期投資向き

    毎月一定額ずつ金融商品を購入し、本来20%かかる譲渡益税や配当所得税は免除される。長期になるほど節税効果が高くなるのも同じだ。

    一方で、iDeCoとつみたてNISAは比べてみると意外と違う点も多い。
     

iDeCo つみたてNISA
非課税期間 加入から60歳まで(70歳まで延長可能) 最長20年
投資限度額 公的年金の加入状況により
年間14万4,000~81万6,000円
毎年40万円(最大800万円)
非課税対象 所得税・住民税
(掛金を全額所得控除)、
運用益にかかる税金、
受給の際、一括受取は退職所得控除、
分割受取(年金受取)は公的年金等控除の対象
売買益・配当金・分配金などの
運用益にかかる税金
対象商品 定期預金・保険・投資信託 金融庁の基準を満たす
投資信託・ETF
資産の
引き出し
原則60歳まで不可 いつでも可能
金融庁『NISAの概要』国民年金基金連合会『iDeCo公式サイト』 より筆者作成

まとめると上の表になる。それぞれの項目について詳しくみていこう。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の非課税期間を比較

iDeCoとつみたてNISAには非課税となる期間がそれぞれ設定されている。iDeCoの場合、加入から60歳の誕生日を迎えるまで所得控除の恩恵が受けられる。年金受取を選択したり通算加入者期間が10年以下であったりするなどして、60歳以降、新たに掛金を拠出せずに運用を続ける「運用指図者」になった場合も、70歳まで運用益は引き続き非課税である。

つみたてNISAの非課税期間は購入した年から最長20年間と決められている。2020年に買い付けた金融商品は2039年まで非課税、2021年の買い付けは2040年までといった具合だ。20年たたないうちに売却してしまっても構わない。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の投資額を比較

iDeCoは年金の被保険者の種別や企業年金の有無によって年間14万4,000円~81万6,000円まで積み立てられる。自営業など公的年金が手薄い職業の人は拠出限度額が月額6万8,000円と高めで、公務員や確定給付企業年金加入者など年金が手厚い職業の人は月額1万2,000円にとどまる。節税メリットを最大限に享受するためにはなるべく投資額は大きいほうがよい。

つみたてNISAの場合、投資額の上限は年間40万円だ。1年目に40万円投資し、2年目にさらに40万円合計で80万円といった投資を20年続けると、最大800万円(年間40万円×20年)の投資枠を得られる。

なお、iDeCoは1回あたりの掛金が5,000円以上1,000円単位という制限がある。つみたてNISAは多くのネット証券では100円から可能だ。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の節税効果を比較

iDeCoとつみたてNISAは値上がり益や分配金・配当金にかかる税金が非課税になるのは共通している。しかしiDeCoとつみたてNISAの節税力には大きな違いがある。iDeCoのほうが節税できる税金の種類が多いのだ。iDeCoの場合、掛金が全額所得控除の対象となり、受け取る際にも税金が優遇される。

iDeCoは特に掛金の所得控除が大きい。iDeCoで掛金を拠出した分だけ所得税や住民税が安くなるのだ。金額にしてどのくらい軽減されるのだろうか。

あくまでも試算だが、たとえば課税所得が900万円で、勤務先に確定給付企業年金がある人や公務員で、掛金を上限の月額1万2,000円とした場合、年間4万7,520円の節税になる。同じ条件で企業年金のない会社員なら月2万3,000円の掛金で年間9万1,080円の節税、掛金が月6万8,000円と大きい自営業者の場合の節税額は26万9,280円にもなる。

さらにiDeCoは受け取りの際の所得控除もある。iDeCoは私的年金を支援する制度なので、受け取りの際は公的年金や退職金と同じように、通常の所得よりも税金が安く済む。おおよその目安として、年金受取なら公的年金と合算して年間70万円まで、一時金受取なら他の退職金と合算して1,500万円までは非課税になる。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の投資対象商品を比較

それぞれの制度では購入できる商品が限定されている。つみたてNISAは一般のNISAに比べて対象商品が少なく、iDeCoにいたってはさらに限定される。一方で、初心者にも選びやすく、極端な銘柄が含まれないという安心感がある。

iDeCoはつみたてNISAに比べて商品数は少ないものの種類は多い。対象は元本確保型の定期預金や保険から国内外株式、新興市場向けやREIT、コモディティの投資信託などのリスク商品と幅広い。ただし各金融機関が提供できる運用商品数に上限が設けられており、2018年6月からは原則35本が上限である。

つみたてNISAの対象銘柄は金融庁の基準を満たしたもので構成されている。特徴は手数料が一定以下でリスクの比較的低い商品がそろっている点である。許可されている商品はインデックス型投資信託・アクティブ型投資信託・上場株式投資信託(ETF)合わせて199本だ(2021年7月22日時点)。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の手数料を比較

iDeCoとつみたてNISAの手数料の違いは大きい。iDeCoは加入時に税込2,829円を国民年金基金連合会に徴収される。加えて運用期間中には年額2,052円~7,548円の国民年金基金連合会手数料、事務委託先金融機関(信託銀行)手数料、口座管理手数料が発生する。

つみたてNISAは、口座の開設や管理に手数料はかからない。投資信託の信託報酬は発生するが、インデックス投信なら信託報酬率0.75%以下の低コストの商品に限られるので、それほど大きな負担になることはないだろう。

手数料が発生するということは、それを超える運用益を出さない限りは元本割れするということだ。商品選びの際にはその点について十分留意するようにしよう。

iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の現金化のしやすさを比較

上の表にある「資産の引き出し」とは、保有していた商品を売却して口座からお金を換金することだ。つみたてNISAは通常の株の運用と同様にいつでも好きなときに換金が可能だが、iDeCoは60歳になるまで売買はできても換金はできない。またiDeCoは10年の通算加入者期間が必要なので、54歳から加入した場合は受給開始が63歳からにずれ込む。つまりNISAに比べて自由にお金を動かしにくいのだ。

つみたてNISAはいつでも口座から資金を引き出せる。お金を動かす自由度はiDeCoよりも高い。ただし換金してしまうと長期投資の効果は薄れる点には注意だ。

2.節税効果だけを比較すればおトクなのは「iDeCo(イデコ)」

どちらが金銭的に有利かという観点では、断然iDeCoのほうがおトクだ。iDeCoはNISAと同じく運用益に対する税金が非課税になるのに加え、掛け金が所得控除の対象になる。年間24万円積み立てたとしたら、その分が所得から差し引かれるため、支払わなくてはならない税金が少なくなるのだ。

シミュレーションで比較してみよう。年収800万円の人が毎月2万円を利回り1%で20年間投資した場合、つみたてNISA とiDeCoで節税効果がどれくらい違うか試算してみる。

・iDeCo(イデコ)の節税効果
所得税・住民税の軽減効果:144万円
運用益の非課税効果:10万4,244円

・つみたてNISAの節税効果
運用益の非課税効果:10万4,244円

運用益の利回りの想定が同じなので、非課税効果は同じだ。違うのは所得税・住民税の軽減効果である。これはiDeCoにしかない特典だ。

所得税の節税効果は、所得税をたくさん払っている人ほど恩恵が大きい。収入が高い人や、扶養家族が少なく社会保険料控除の少ない人は所得税が高くなりがちなので検討してみるといいだろう。

逆に収入のない専業主婦は、つみたてNISAとiDeCoで節税効果は変わらないことになる。iDeCoは収入の少ない専業主婦も入れると話題になったが、メリットも少ないことを覚えておこう。

3.現金化のしやすさと安全性なら「つみたてNISA(積立NISA)」

iDeCoに軍配が上がったように見えるが、節税効果だけで決めるのは早計だ。お金は流動性によっても価値が変わるので、「必要な時にいつでも引き出せるか」という観点も重要である。

iDeCo(イデコ)は60歳まで換金不可

iDeCoはあくまでも年金資金の積み立てが目的なので、他のライフイベントへの転用ができない。原則60歳になるまで現金化することはできず、最低10年の加入期間が必要になる。つまり流動性が非常に低い。一方、つみたてNISAは保有資産をいつでも売却し引き出すことができる。教育資金が必要になった時などでも、すぐに対応可能だ。

4.初心者にも選びやすい商品が多いのは「つみたてNISA(積立NISA)」

商品の選びやすさにも着目したい。つみたてNISAの対象商品は、金融庁によって厳格に基準が設けられている。手数料や総資産残高など、安全性の高い商品に必要な要素が求められ、基準はかなり厳しい。そのため安全で長期の積立投資に適したインデックスファンドとETFが中心である。これならば初心者でも銘柄選びで戸惑うことが少なくて済むだろう。

しかし一般のNISAには外国株式やコモディティ商品といったハイリスクな投資対象も含まれる。iDeCoは総商品数に上限はあるものの基本的に商品の選定は各金融機関にゆだねられているため、中には高コスト高リスク商品が含まれている場合もある。

5.iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)の優先度は「年齢」と「収入」次第

長期投資をするにあたって、iDeCoとつみたてNISAのどちらを選ぶかは、年齢と収入を参考基準にするといいだろう。

iDeCo(イデコ)に向いている人……十分な収入がある人

iDeCoは、教育費や住居費などの確保ができていて、十分な収入がある人に向いている。所得税・住民税の節税効果が高いうえ、自由にならない資金を持つ余裕があるからだ。単純計算で「投資額×所得税率」が節税できるのだから、十分な収入がある人はまずはiDeCoを優先するのがよいだろう。

ただし加入年齢には注意が必要だ。60歳までなら加入できるが、拠出期間が10年必要なので、60歳から受け取りたければ50歳までに始める必要がある。40歳代であれば拠出期間は10年以上あるので問題ないだろう。

つみたてNISA(積立NISA)に向いている人……ライフイベントに変動が起きやすく資金に流動性を持たせておきたい人

つみたてNISAは、先の見通しが立たずお金を何十年も動かせないことに不安を持つ人に向いている。住宅購入や子供の教育費などライフイベントに変動が起きやすい場合は、資金を流動的に動かせる投資方法を選ぶのがいいだろう。

投資初心者もしくは銘柄選びにあまり時間をかけたくない場合も、つみたてNISAなら手数料が安く安全性の高い商品がそろっている。自身の収入がない専業主婦はiDeCoの所得控除のメリットがないため、より投資可能額の大きいつみたてNISAを優先するのがよい。

6.iDeCo(イデコ)とつみたてNISA(積立NISA)は併用できる

iDeCoとつみたてNISAのどちらが良いかという話になりがちだが、もともと両者はまったくの別制度であるため、併用することはまったく問題ない。片方の掛金がもう片方の限度枠に影響することもない。そもそもiDeCoは厚生労働省の管轄、NISAは金融庁の管轄だ。

資金に余裕があるなら、iDeCoとつみたてNISAを限度額いっぱいまで活用して非課税効果を最大化するのもよいだろう。振り分けられる資金に限りがあるなら、ここまでの解説を参考にどちらを優先するか決めてみよう。

iDeCo(イデコ)と一般NISA(ニーサ)の併用も可能

一般のNISAとつみたてNISAは併用できないが、iDeCoと一般NISAの併用はできる。つみたてNISAを併用したときとの違いを押さえよう。

まず投資スパンが一般NISAとつみたてNISAで異なる。つみたてNISAは投資期間が20年と長期を想定しているが、一般NISAは5年と短期もしくは中期の投資を想定している。したがって、iDeCoで老後資金を形成しながら、一般NISAで積極的な投資を行うというスタイルが可能だ。積み立てという形でなくても年間120万円まで投資できるので、まとまった資金をすぐに運用したいときに向いている。

一般NISAはつみたてNISAと異なり商品ラインアップも豊富だ。それだけにハイリスク・高コスト商品も含まれていることには注意したい。あくまでも自己責任で、長期の積立投資以外の投資方法を非課税で行いたい場合に活用したい制度だ。

新NISAがスタートしてもiDeCo(イデコ)との併用は可能

現在のNISA制度は2024年に一新される。iDeCoとの併用が継続できるのか気になるところだが、結論から言うとまったく心配ない。つみたてNISAの制度は5年期間延長され、新制度導入後も継続できる。改正後の新NISAは、現行の一般NISAと積立投資の「2階建て」となっており、やはりつみたてNISAといずれにするか選択する仕組みになる。どちらを選んだとしても、iDeCoと併用可能なのは変わりない。

7.iDeCoとつみたてNISA(積立NISA)は自分の状況に合うほうを選択

iDeCoとつみたてNISAが向いている人の特徴をまとめると以下である。

  • 所得が十分にあり、老後資金の形成が目的なら「iDeCo」
  • 将来の不確定要素が大きい人や専業主婦(夫)は「つみたてNISA」

iDeCoとつみたてNISAのどちらにするかを選ぶ際は、どちらが得かだけで選ばずに、自分の状況に合っているほうを選ぶようにしたい。資金に余裕があるなら、iDeCoとつみたてNISA、iDeCoと一般NISAなど、両制度を併用することも検討してみよう。

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篠田わかな
執筆・篠田わかな
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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