株式や投資信託は投資の代表的な手段として広く認識されている。こうした有価証券以外にも、実物資産である貴金属も投資や資産運用の対象となる。今回は、貴金属の中でも、プラチナに焦点を絞って、プラチナ投資全般について解説する。
目次
1,プラチナ投資の3つの特徴とは?
貴金属を対象資産とする貴金属投資の中では、金投資の歴史がもっとも古く、取引も幅広く行われている。
昨今の金投資人気の高まりとともに、比較的新しい貴金属であるプラチナに対する投資にも注目が集まるようになった。
まだまだ認知されていないことも多いプラチナ投資の特徴や、初心者が取り組みやすいプラチナ投資信託あるいはプラチナETF、ならびにプラチナ投資のメリット・デメリットなど、実践的な見地から掘り下げてみたい。
プラチナ投資の特徴1,プラチナの価値はゼロにならない
プラチナは、金や銀同様、実物資産の一つであり、プラチナ投資は石油、大豆、トウモロコシといった商品(コモディティ)投資の一種としても認識されている。
貴金属であるプラチナは、それ自体が価値をもっているため、どのような状況下においても価値がゼロになることはない。
信用に基づいて価値が保たれている株式や通貨などが、発行体である企業の倒産や国の財政破綻といった緊急事態で、無価値になることがあるのとは対照的だ。
プラチナ投資の特徴2,株式や債券などの金融商品の値動きと連動しない
プラチナの値動きは、株式や債券などの金融商品と相関性が低いことがわかっている。金融商品の価格が下落している局面でも、プラチナや金、銀のような貴金属の価格が下がる明らかな傾向は見られない。
かつては、プラチナの価格は、コモディティの仲間である、原油や天然ガスのようなエネルギー、小豆またはトウモロコシなどの穀物などの値動きと相関性があると考えられていたが、近年では貴金属以外の商品相場と必ずしも連動しないとの見方が優勢だ。
プラチナに投資する意義はまさに、リスクヘッジにある。有価証券や通貨などの金融商品や、他の商品先物などとともにポートフォリオに組み入れることで、他の原資産の信用リスク下落や価格下落リスクを軽減することができるのだ。
プラチナ投資の特徴3,他の貴金属よりボラティリティが高い
プラチナは金同様に安全資産としての側面をもちながらも、金に比べて価格変動幅(ボラティリティ)が大きい、ハイリスク・ハイリターンな実物資産でもある。その理由は主に、プラチナの希少性と産業向け需要の高さにある。
プラチナは金に比べると、埋蔵量、産出量ともに圧倒的に少なく、世界中のプラチナ埋蔵量は金の30分の1、産出量は18分の1にとどまり、今後は産出量の減少も危ぶまれている。
世界各地で産出される金に比べると、プラチナの産出国は南アフリカとロシアの2国に集中しており、プラチナの希少性の高さは金をはるかに上回る。
さらに、産出されるプラチナの約4割は、自動車向け排ガス触媒あるいは燃料電池の基幹部材としての利用といった自動車向けの需要が占めてり、3割弱が工業利用となっている。そのため、自動車産業の動向や、プラチナの工業分野への利用状況にプラチナ価格は左右されやすい。
2,プラチナ投資の種類
プラチナ投資とは、プラチナを原資産とする投資全般のことであり、具体的には「現物取引」「投資信託」「ETF」「その他(関連銘柄株、白金先物)」がある。
1,プラチナ現物取引(地金および積立)……プラチナ現物を購入する
プラチナ現物取引とは、貯蔵しやすい形に加工して、棒や板の状態に固めた地金(じがね)を指す。地金は、100グラム、500グラム、1キログラムのように、重量別に鋳造され、表面にはシリアル番号や鋳造業者名、重量・素材・純度などの情報が刻印されている。
プラチナ地金は取扱業者を通して、取引単位以上の重量あるいは金額を指定して購入する。実際にはプラチナ地金そのものを受け渡しするわけではなく、地金は取扱業者の保管場所に保管される。
また、主要ネット証券であるSBI証券、楽天証券、マネックス証券では、プラチナ現物に対して、1回ずつ買付注文を出すスポット取引と、毎月定額または定量買付予約ができる積立取引が可能。証券口座を開設してから、あるいは同時に金・プラチナ専用口座を開設することで、プラチナ現物を取引できる。
2,プラチナ投資信託……プラチナ地金や先物などプラチナ関連銘柄で構成されたファンド
プラチナ投資信託は、資産運用会社が設定・運用管理するファンドである。
証券口座を開設している証券会社がプラチナ投資信託を取り扱っていれば、一般的な投資信託とまったく同じ要領で、1口単位で購入することができる。
各ファンドには対象指標が設定されており、構成銘柄として、プラチナ地金、プラチナを原資産とする先物やCFDなどの金融商品、プラチナ採掘会社あるいは運営会社の株式などが組み入れられている。
3,プラチナETF……取引所に上場されているプラチナ投資信託
プラチナETFは、投資信託と仕組みがまったく同じ金融商品であり、プラチナ関連銘柄でポートフォリオが組まれたファンドである。大阪取引所に上場されている点が、投資信託との大きな違いだ。
上場銘柄であるため、取引所の立会時間中であれば、証券会社を介して、リアルタイムで上場株式同様の取引ができる。
4,その他……関連銘柄株、白金先物
プラチナ投資には、この他に、プラチナ採掘会社やプラチナ鉱山運営会社、ADRへの株式投資や、大阪取引所に上場する白金標準先物、白金ミニ先物、白金限月日先物へ投資するといった方法もある。
3,プラチナ投資信託・ETFの2つのメリット
上述したプラチナ投資の中では現物取引、投資信託、ETFの3つが始めやすい。このうち、プラチナ現物取引はシンプルな取引でわかりやすい。地金を購入して、高値になったら売却する、あるいは資産として長期間保有するだけである。
しかしながら、初心者が初めて投資するプラチナ投資には、プラチナ現物取引ではなく、あえてプラチナ投資信託あるいはプラチナETFを選ぶことをおすすめしたい。
プラチナ投資信託やETFのメリットを挙げながら、現物取引より初心者向けである理由を明らかにしていこう。
メリット1,投資信託やETFは購入しやすく手数料もお得
プラチナ投資信託とETFは、プラチナ地金を取り扱っているSBI証券、楽天証券、マネックス証券だけでなく、どのネット証券でも購入できるので、一般の株式や投資信託と同じような感覚で取引できる。さらに、主要ネット証券ではすべての投資信託の買付手数料が無料になっている。
一方、プラチナ地金の手数料は、取り扱いのあるネット証券3社では売却手数料こそ無料だが、スポット取引と積立取引の買付手数料(税込)はSBI証券が2.2%、楽天証券とマネックス証券が1.65%かかるので、投資信託の投資コストは圧倒的に低い。
上場株式の一種であるプラチナETFの手数料についても、プラチナ地金より、実質的に低コストで取引できる。特に主要ネット証券の取引手数料は証券業界内でも最低水準を誇る。割引サービスやポイント還元などを活用すればより低コストでプラチナETFの売買が可能となる。
メリット2,課税方法がわかりやすく確定申告も不要
プラチナ投資信託とプラチナETFから得られる売却益は、一般的な株式や投資信託などと同じで、申告分離課税の対象となり、源泉徴収ありの特定口座で取引できる。
プラチナ投資信託やETFの分配金も源泉徴収ありの特定口座で受け取れば、所得税等や住民税として20.315%が源泉徴収されるので、確定申告の必要はない。
一方、プラチナ地金は、金地金や銀地金と同じように、税制上、不動産以外の資産に相当する。売却時までの保有期間によって「長期譲渡所得」または「短期譲渡所得」に分かれ、課税対象額が変わってくる。
プラチナ地金の譲渡所得は、給与所得などと合算した「総合課税」の対象であり、一定条件の場合を除いて、確定申告も必要になる(税率は所得総額によって異なる)。
例えば、給与所得者がプラチナ地金を購入後、5年超保有した後に売却して譲渡益が出ると、その所得は長期譲渡所得となる。年間50万円の特別控除が適用された後に、譲渡所得を2分の1にした金額が課税対象だ。
購入後、5年以内に売却すると、所得は短期譲渡所得とされる。年間50万円の特別控除適用後の譲渡所得が課税対象となり、譲渡益が同じでも、短期譲渡所得のほうが長期譲渡所得より納付額が多くなる。
このように、納税額の計算や確定申告の手間を考えると、同じプラチナ投資といっても、地金より、投資信託とETFのほうが断然手軽に投資できるのだ。
4,プラチナ投資信託・ETFの2つのデメリット
プラチナ投資初心者におすすめできる投資信託とETFではあるが、商品性によるデメリットや、リスク資産に近いプラチナならではの注意点もある。
デメリット1,プラチナ相場とともにファンド価格も下落するリスクが大きい
投資信託やETFは、建前上は資産分散によってリスクを軽減できる仕組みの金融商品であるが、プラチナ投資信託やETFに限っては、リスク分散効果をあまり期待できない。
プラチナ関連ファンドには、実際には限られた銘柄しか組み入れられていないため、将来的にプラチナの価値が下がれば、ファンド相場も同時に下落する可能性が大きいのだ。
同じ貴金属の仲間である金は「有事の金」と呼ばれ、景気低迷局面においても、金の価格が大きく下落することがない安全資産である。
それに対して、プラチナは自動車業界や工業分野の動向、もしくは産出国である南アフリカやロシアの経済状態に左右されるため、原油などのエネルギー資源をはじめとするリスク資産に似た値動きをする。金と同じ貴金属の仲間であるが、プラチナが投機的な資産として認識されているのは、この理由によるものだ。
プラチナの市場規模の小ささや供給量の先細り、産業界における需要減によって、将来的にプラチナの価値や価格が下がるリスクは決して低くはなく、状況次第で元本割れリスクもある。
「プラチナは貴金属だから安全資産だ」という誤った認識や、「投資信託あるいはETFだからリスク分散できている」という過信は、貴重な資産の大幅減少につながりかねないので、十分な注意が必要だ。
デメリット2,金に比べて投資対象としての認知度が低く、流動性リスクが高い
プラチナは比較的新しい貴金属であり、投資対象資産としての歴史も浅く、金より認知度が低いのは明らかである。金ではなくプラチナを選ぶメリットも認知されているとは言い難いため、現状では、プラチナ関連商品の取引はそれほど多くない。
プラチナ投資信託またはETFを買い付ける、あるいは解約(売却)する際に、不利な条件で約定する、あるいは取引が成立しない可能性もある。
プラチナに関連する金融商品を取引する際には、流動性リスクを見越して、つねに余裕をもった取引を心掛けたほうがよい。
5,ネット証券で取引できるプラチナETF3選
市場規模の小ささや認知度の低さから、プラチナ関連指数を参照指標とする投資信託やETFで、取引できる銘柄は極めて少ない。
主要ネット証券各社の投資信託検索で、「プラチナ」あるいは「白金」をキーワードに検索しても、1件もヒットしない。コモディティまたは商品に分類される銘柄にも、プラチナ関連銘柄は含まれていないのが現状だ。
しかし、東京証券取引所にはプラチナ関連銘柄が3件上場しているので、プラチナの将来性に強い期待を寄せるプラチナ投資初心者は、以下に紹介する3件のETFに注目してほしい。
国内の自動車業界における水素自動車および燃料電池開発推進への期待が追い風となり、プラチナETF3件の取引量は漸増している。近年落ち込んでいたプラチナETF銘柄の価格も戻りつつある。
しかしながら、現状では3件とも流動性は高くなく、マーケットメイク対象外なので、希望どおりの条件で約定するとは限らない点に注意してほしい。
取引できるプラチナETF1,純プラチナ上場信託(現物国内保管型)<1541>
<銘柄基本情報>
銘柄名 <銘柄コード> |
純プラチナ上場信託 (現物国内保管型)<1541> |
|
通称 | 純プラ信 | |
2021年4月22日終値 | 3,915円 | |
対象指標 | 白金 | |
管理会社 | 三菱UFJ信託銀行 | |
信託報酬(税込) | 0.55% | |
取引単位 | 1口単位 | |
分配金利回り | 0.00% | |
トータルリターン(騰落率) ※2021年1月29日現在 |
過去3カ月 | +22.74% |
1年 | +3.74% | |
3年 | +0.91% | |
5年 | +2.30% |
対象指標となっている白金価格は、大阪取引所に上場するプラチナ地金1グラムあたりの先物価格にもとづいて再評価された、現在のプラチナ地金の理論価格である。
ファンド組入れ銘柄は白金100%となっており、取引しやすいETFの形をとりながら、プラチナ地金に直接投資することと同等の意味をもつ。リスク分散効果は低いので、価格の推移には常に注意を払いたい。
将来的にプラチナの価値と価格が上昇すれば、ETFの価格も値上がりする。プラチナの将来性を信じる人にとっては、本ETFはもっとも簡単にプラチナ投資できる最有力候補となる。
取引できるプラチナETF2,WisdomTree白金上場投資信託<1674>
<銘柄基本情報>
銘柄名 <銘柄コード> |
WisdomTree 白金上場投資信託 <1674> |
|
通称 | プラチナETF | |
2021年4月22日終値 | 1万2,180円 | |
対象指標 | 白金 | |
管理会社 | ウィズダムツリー・マネジメント・ ジャージー・リミテッド |
|
信託報酬(税込) | 0.49% | |
取引単位 | 1口単位 | |
分配金利回り | 0.00% | |
トータルリターン(騰落率) ※2021年1月29日現在 |
過去3カ月 | +25.60% |
1年 | +7.76% | |
3年 | +5.39% | |
5年 | +8.76% |
対象指標の価格は、ロンドン白金・パラジウム市場(LPPM)の規格にもとづいて決定する、プラチナ地金を裏付けとしたプラチナのスポット(現物取引)価格である。
本ETFの値動きはプラチナ地金価格と連動するため、初心者にもわかりやすく、ETFならではの売買のしやすさも大きなメリットになる。
外国籍のETFなので、取引にあたっては、証券会社に外国株式取引口座を開設する必要がある。
取引できるプラチナETF3,NEXT FUNDS日経・JPX白金指数連動型上場投信<1682>
<銘柄基本情報>
銘柄名 <銘柄コード> |
NEXT FUNDS日経・ JPX白金指数連動型上場投信 <1682> |
|
通称 | NFプラチナ先物 | |
2021年4月22日終値 (最低投資価格) |
224円 (2万2,400円) | |
対象指標 | 日経・JPX白金指数 | |
管理会社 | 野村アセットマネジメント | |
信託報酬(税込) | 0.495% | |
取引単位 | 100口単位 | |
分配金利回り | 0.00% | |
トータルリターン(騰落率) ※2021年1月29日現在 |
過去3カ月 | +21.02% |
1年 | +6.74% | |
3年 | +6.15% | |
5年 | +0.53% |
対象指標の価格は、大阪取引所に上場する白金先物取引の、流動性の高い限月を対象にして算出されている。
先物取引には返済期限があり、それにともなってロールオーバーが発生する。ロールオーバーの際に限月間に価格差が生じても、対象指標の価格は先物価格に連動せず、乖離することがある。
このような先物価格と対象指標の乖離が長期間解消されない可能性もあるため、本ETFは、基本的に短期投資向きであると考えてほしい。
先物取引の経験がまったくない人は、先物取引の仕組みを理解できるようになるまで控えたほうがよい銘柄だ。
なお、本ETFの取引単位は100口単位であるため、最低投資金額は、公表されるETF価格を100倍した金額となる。
6,貴金属でありながら投機的な性質をもつプラチナ、価格変動要因には要注意
プラチナは金・銀同様に貴金属の一種であり、本来の投資対象は実物資産である。しかし、金に比べると認知度が低く、プラチナ投資を指向する投資家は多くない。プラチナ投資初心者が取引しやすい商品もETF3銘柄だけである。
このような状況においても、プラチナの将来性を見越して、プラチナ投資を始めるならば、影響力が大きい自動車産業や工業界の動向には、常時注意を払ってほしい。
その上で、見込みどおり、産業界でプラチナの利用価値が上がり、需要も増えれば、必然的にプラチナ投資によるリターンも増大するだろう。
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