iDeCoの最大のメリットは、節税効果だろう。iDeCoは掛金の全額が「所得控除」の対象となり、その分の所得税及び住民税を節税できる。iDeCoがどのような仕組みで節税できるかを見ていこう(税制は2021年10月時点)。
目次
1.iDeCo(イデコ)の3つの節税メリット
iDeCoのポイントは以下の3つだ。
- 掛金全額所得控除による所得税と住民税の軽減効果が高い
- 預金利息や投資信託の運用益が非課税になる
- 年金または一時金での受取時にも控除がある
節税メリット1……掛金全額所得控除による所得税と住民税の軽減効果が高い
iDeCo以外に所得控除が使える代表的な金融制度としては、生命保険料控除があります。ただし、生命保険控除は、控除額の上限が決まっており、iDeCoのように掛金全額は控除できません。
そのため、所得控除による税軽減効果を比べれば、iDeCoは他の制度よりもはるかに節税効果が高いのだ。
節税メリット2……預金利息や投資信託の運用益が非課税になる
iDeCoは掛金の全額所得控除に加えて、有利にお金を増やしやすい仕組みになっている。
iDeCoは自分でどの商品に積立をするか選べるが、その商品は大きく預金と投資信託に分かれる。
預金では利息が発生し、投資信託では将来の運用益を期待できる。
通常、利息にしても運用益にしても、増えたお金に対しては、換金した時点で約20%の税金を徴収される。
同じ運用でも、iDeCoを利用するのとしないのとでは、どちらの節税効果が高いかは明白でしょう。
節税メリット3……年金または一時金での受取時にも控除がある
iDeCoの資産は原則として60歳以降に年金または一時金で受け取れる。
人によっては何十年もの加入期間になるため、受取金額が数百万円や1,000万円以上になる可能性もある。
そのような大きな金額を受け取ると収入とみなされ税金が発生することもあるが、iDeCoでは受取方法に応じた控除を利用でき、節税できる仕組みになっている。
iDeCoでは、年金受取の場合は「公的年金等控除」、一時金受取の場合は「退職所得控除」を利用します。
出典:国税庁『No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)』
年金と一時金でどちらが節税になるかは受取時の状況にもよるが、現状では多くの人が一時金で受け取っているようだ。
出典:国民年金基金連合会
『iDeCoってなに?』
所得控除によるiDeCo(イデコ)の節税メリットは自分でも計算できる
iDeCoの3つの節税メリットの中でも加入者にとりわけ恩恵が大きいのは、掛金の所得控除だ。
運用益の非課税はある程度の金額に増えなければ大きな効果はないし、受取時の所得控除はかなり先の話になる人も多いだろう。
どのくらいの節税額になるかは自分でも比較的簡単に計算できるため、節税の仕組みを見ていこう。
2.iDeCo(イデコ)では所得税と住民税が節税できる
iDeCoの節税額は自分の所得税率や住民税率さえ把握すれば、すぐに計算できる。
まずは、所得税と住民税の節税の仕組みを確認していきたい。
iDeCo(イデコ)で所得税が節税できる仕組みを解説
所得税は収入が上がるごとに税率が高くなる累進税率であり、課税所得に応じて以下の税率が適用される。
なお、日本は超過累進課税方式のため、課税所得全額にその税率がかかるわけではない。
それを考慮し、下の表では控除額を表示した。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
これらの課税所得に対応する税率が、自分の所得税率というわけです。
大抵はこの計算で問題ないが、iDeCoに加入することで課税所得が圧縮されるため、税率が1段下に下がる人がたまにいる。
確認方法としては、課税所得からiDeCoの年間掛金を引いた金額を税率表に当てはめてほしい。
もし税率が下がるようなら、その数字を使って節税額を計算するのが正確だ。
iDeCo(イデコ)で住民税が節税できる仕組みを解説
個人の住民税は「所得割」と「均等割」に分けられるが、iDeCoの節税においては所得割のみを使える。
所得税と合わせて1年間だけでも十分お得ですが、iDeCoでは収入がある限り税金の軽減が毎年続いていくため大きな節税になります。
3.iDeCoで所得税と住民税がどのくらい節税できるのかシミュレーション
ここまでのiDeCoの節税の仕組みをもとに、具体的なモデルケースでどのくらいの節税額になるのか計算してみたい。
会社員年収1,000万円のiDeCoの節税シミュレーション
iDeCoの節税額は掛金や所得状況によって全く異なるが、今回は以下の条件でシミュレーションを行う。
• 年収1,000万円
• 月額掛金2万3,000円(年額27万6,000円)
iDeCoの節税額を計算するためには自分の所得税率を把握することが必要だと解説した。
所得税率は課税所得から求められ、先ほども軽く触れたが、計算式は以下のようになる。
・給与所得控除は収入に応じて決まっている
給与所得控除とは主に会社員に適用される仕組みで、収入に応じて以下のように控除額が決まっている(2021年現在)。
源泉徴収票の支払金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
165万円以下 | 55万円 |
180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
・各種所得控除は基礎控除や社会保険料控除など14種類ある
各種所得控除とは給与所得控除以外に差し引ける14種類の控除である(2020年より改定)。
今回はこの14種類の所得控除をまとめた下の表から、ほとんどの人が共通して当てはまる基礎控除と社会保険料控除を使用する。
各種所得控除 | 所得税の控除額 |
---|---|
基礎控除 | 48万円 |
配偶者控除(一般) | 38万円 |
配偶者特別控除 | 最高38万円 |
扶養控除(一般) | 38万円 |
障害者控除(一般) | 27万円 |
寡婦・寡夫控除(一般) | 27万円 |
勤労学生控除 | 27万円 |
雑損控除 | 災害損失額の一定額 |
医療費控除 | 最高200万円 |
社会保険料控除 | 支払った社会保険料の額 |
小規模企業 共済等掛金控除 |
支払った掛金の額 |
生命保険料控除 | 最高12万円 |
地震保険料控除 | 最高5万円 |
寄附金控除 | (年間所得金額×40%もしくは 寄附金合計額のどちらか低いほう)-2,000円 |
基礎控除も2020年分より改定され、以下の表のようになっている。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,450万円以下 | 32万円 |
2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0万円 |
先ほどの給与所得控除の計算から、所得金額は1,000万円-195万円=805万円であり、2,400万円以下となるので、基礎控除は48万円である。
社会保険料は概算で年収の15%とする。
社会保険料控除150万円(概算)=年収1,000万円×15%
(内訳:基礎控除48万円+社会保険料控除150万円)
給与所得控除額や各種所得控除額を課税所得算出の計算式に当てはめると以下のようになる。
課税所得と所得税率の表から、税率20%で考えればよく、住民税(一律10%)を合わせて30%だ。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
簡易的な節税シミュレーションならiDeCo公式サイトや金融機関サイトなどでも提供されているため、利用してみてはいかがだろうか。
iDeCo(イデコ)の節税額早見表
iDeCoのシミュレーションでは特定の条件をモデルにしたが、各所得税率と掛金による節税額は早見表で確認するとわかりやすいだろう。
税率 | iDeCoの月額掛金 | ||||
---|---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 1万2,000円 | 2万円 | 2万3,000円 | 6万8,000円 |
年間節税額 | |||||
5% | 10% | 2万1,600円 | 3万6,000円 | 4万1,400円 | 12万2,400円 |
10% | 2万8,800円 | 4万8,000円 | 5万5,200円 | 16万3,200円 | |
20% | 4万3,200円 | 7万2,000円 | 8万2,800円 | 24万4,800円 | |
23% | 4万7,520円 | 7万9,200円 | 9万1,080円 | 26万9,280円 | |
33% | 6万1,920円 | 10万3,200円 | 11万8,680円 | 35万880円 | |
>40% | 7万2,000円 | 12万円 | 13万8,000円 | 40万8,000円 | |
45% | 7万9,200円 | 13万2,000円 | 15万1,800円 | 44万8,800円 |
上の表の4種の掛金は、以下に示したように、その人の立場によって区分される上限額だ。
社会保険区分や勤務先の企業年金制度の状況によりどれに当てはまるのかは異なり、正式には申込手続きの間にわかる。
社会保険加入区分 | 対象 | 掛金の上限額 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業者、学生 | 月額6万8,000円 |
第2号被保険者 | 企業年金のない会社員 | 月額2万3,000円 |
企業型DCのみに加入中の会社員 | 月額2万円 | |
その他の会社員、公務員 | 月額1万2,000円 | |
第3号被保険者 | 専業主婦・主夫 | 月2万3,000円 |
4.iDeCo(イデコ)は会社員より自営業者のほうが節税効果が高い
iDeCoのシミュレーションでは年収1,000万円の会社員だと年間およそ8万円程度節税できた。
しかし、会社員は退職金や厚生年金などで有利なため、掛金上限は自営業者の掛金上限6万8,000円に比べると半分以下に設定されており、iDeCoに限っては自営業者が有利だ。
この掛金の差がどのくらいの節税効果の差になるのだろうか。
所得税率が20%、月額掛金は会社員が2万3,000円、自営業者は6万8,000円だとすると、期間が長くなるほどiDeCoによる節税効果の差は開いていく。
累積の節税額 | ||||
---|---|---|---|---|
1年 | 10年 | 20年 | 30年 | |
会社員 | 8万2,800円 | 82万8,000円 | 165万6,000円 | 248万4,000円 |
自営業者 | 24万4,800円 | 244万8,000円 | 489万6,000円 | 734万4,000円 |
税軽減額の差 | 16万2,000円 | 162万円 | 324万円 | 486万円 |
同じ税率でも掛金が違えばこれだけiDeCoの節税効果に差が生まれる。
所得控除できる掛金が多いことがいかにメリットとなるかがわかるでしょう。高年収だと所得税率がさらに上がるため、収入が高ければ高いほどiDeCoの節税効果は強力になっていくのです。
5.iDeCo(イデコ)の節税における注意点
iDeCoの節税効果は強力だが、場合によっては十分に恩恵を受けられなかったり、他の制度に影響を及ぼしたりすることがある。
どのような時に注意すべきなのだろうか。
専業主婦・主夫はiDeCo(イデコ)の節税メリットが弱くなる
iDeCoの最大のメリットである所得控除の効果は誰でも受けられるが、控除というからには課税対象となる収入がなければメリットが生じない。
では、どのくらいの収入から課税され、iDeCoに加入するメリットが高まるのだろうか。
・収入が少なくてもiDeCo(イデコ)加入のメリットはある
そこまでの年収がない場合、専業主婦・主夫がiDeCoに加入するメリットは弱くなってしまうが、全くなくなるわけでもない。
iDeCoで運用した資産から得た収益には課税されないというメリットがあるためだ。
将来的に収益がふくらんでいけば、通常の課税口座で運用する場合と比べて数十万円単位の大きな差になることもあります。
そうとはいえ、節税メリットが限定されるiDeCoへの加入に抵抗を感じるなら、他の税制優遇口座である「つみたてNISA」を利用する方法もある。
つみたてNISAには後述するようなiDeCoのデメリットもないため、専業主婦・主夫には合っているかもしれない。
iDeCo(イデコ)と住宅ローン控除の併用で控除金額が余る
そもそもiDeCoと住宅ローン控除では、減税までの仕組みが異なる。
所得税や住民税は課税所得に税率を乗じて計算されるが、iDeCoの所得控除はその課税所得を減らす効果がある。
課税所得が減ることで、税額も少なくなる仕組みだ。
一方、住宅ローン控除では、最終的な税額から特定の金額を直接控除できる仕組みである。
iDeCoによって元々の税額が減ったということは、その分、住宅ローン控除で差し引く対象の税額も少なくなるということだ。
・iDeCo(イデコ)と住宅ローン控除の併用は不利にならない
しかし、iDeCoのおかげで支払うはずだった税額は減っているため、住宅ローン控除とiDeCoの併用によるデメリットはない。
出典:総務省『新築・購入等で住宅ローンを組む方・組んでいる方へ 個人住民税の住宅ローン控除がうけられる場合があります。』
住宅ローン控除のことだけを考えれば控除金額はなるべく使い切りたいですが、トータルで考えてiDeCoとの併用について気にする必要はないといえるでしょう。
iDeCo(イデコ)でふるさと納税の控除限度額が下がる
ふるさと納税をしている人はiDeCoの加入をためらうことがあるかもしれない。
ふるさと納税の控除限度額は課税所得をもとに計算されているからだ。
iDeCoは課税所得を下げるため、ふるさと納税の控除限度額も下がり、損になるのではと感じる人もいるだろう。
iDeCoとふるさと納税を併用することでどんな違いがあるのか確かめてみよう。
・iDeCo(イデコ)とふるさと納税の併用をシミュレーション
ふるさと納税で控除できる金額は、「ふるさと納税額−2,000円」だ。
つまり、2,000円を負担して残りの納税額を控除できるのだが、自己負担2,000円で済む金額には限度額がある。
上記の仮定のままiDeCoに加入して月額掛金が2万3,000円だとすれば、ふるさと納税の控除限度額は11万2,347円になる。
出典:ふるさとチョイス
iDeCo加入前と比べて約7,900円少なくなるため、損をした気になるかもしれない。
iDeCoの月額掛金 | ふるさと納税の控除限度額(年収800万円の場合) | 差額 |
---|---|---|
なし | 12万281円 | 7,934円 |
2万3,000円 | 11万2,347円 |
だが、iDeCoによる所得控除効果を含めれば、ふるさと納税の控除限度額が下がっても併用のメリットはある。
iDeCoの所得控除で軽減される税額は税率で異なり、所得税20%とすれば住民税10%と合わせて30%分が軽減される。
先ほどの例に当てはめると、iDeCoの年間掛金27万6,000円×30%=8万2,800円が所得税、住民税として軽減される金額だ。
ふるさと納税の控除限度額は減ってしまいますが、それ以上にiDeCoの節税効果が高いため、ネガティブに捉える必要はないでしょう。
6.iDeCo(イデコ)の節税効果によるメリットはデメリットを上回る
iDeCoには3つの節税メリットがあるが、デメリットもある。
主なデメリットは60歳まで原則として引き出せないことと月々の口座管理手数料がかかることだ。
・引き出し制限はあるが、積立効果は高い
iDeCoの引き出し制限は強力で基本的には不可能と考えたほうがいい。
iDeCoは途中で引き出せないため緊急時の資金としても使えないが、積立さえ続ければ将来のお金を確実に準備することにもつながる。
引き出しができるとついつい使ってしまうことも考えられるため、人によってはメリットと言えるかもしれません。
・口座管理手数料が安い金融機関を選ぶべき
iDeCoの口座管理手数料もデメリットであるが、収入があり所得控除できる人には税負担の軽減でカバーできることが多い。
iDeCoの口座管理手数料は金融機関によって異なるため、あまり高いところは選ばないほうが賢明だ。
iDeCoの手数料が安いのはネット証券系だが、対面型でも条件を満たせば安くなるところがあるので、比較したいポイントだ。
iDeCoにはデメリットもありますが、ほとんどの人にとってiDeCoの節税効果はそれを上回るメリットになります。掛金の所得控除は期間が長いほど効果が高いため、可能な限りiDeCoを活用していきたいものです。
iDeCoの節税メリットについてよくある5つのQ&A
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