会社員が企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入していると、iDeCoに加入できない場合も多い。iDeCoに加入できる会社員と加入できない会社員の違いについて、企業型DC加入者のiDeCo加入要件が大幅に緩和される2022年10月の改正の内容とあわせ解説する。
1,iDeCo(イデコ)とは?メリットやデメリット、加入資格など
iDeCoとは、「個人型確定拠出年金」のことをいい、公的年金である国民年金や厚生年金に上乗せする形で老後資金準備を行う、「私的年金」のひとつだ。掛金で運用商品を購入し、60歳以降、それまでに積み立てたお金を年金として受け取る仕組みになっている。iDeCoの加入者は大幅に増加し、2020年11月末時点で178万人を超えた。
<日本の年金制度の概要・拠出限度額>
iDeCo(イデコ)のメリット……税制面での3つの優遇
iDeCoを利用する最大のメリットは、税制面での優遇にある。拠出時、運用時、受取時に次のようなメリットが得られる。
・掛金拠出時
iDeCoの掛金は、全額が所得控除である「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、所得税と住民税が軽減される。年収800万円(課税所得330万円〜695万円)の人であれば、月掛金1万円(年間12万円)につき、所得税・住民税をあわせ約3万6,000円の負担軽減効果が期待できる(復興特別所得税を除く)。
・運用時
運用期間中の利益には税金がかからず、すべての運用益が年金資産として積み立てられる。ただし、年金積立金に対して1.173%の特別法人税が課税される(2023年3月31日までは課税が凍結されている。制度開始以降、凍結は延長が続いているが、凍結が終了するリスクもある)。
・年金受取時
将来受け取る年金には原則税金がかかるが、「公的年金等控除」または「退職所得控除」によって負担が軽減される。
iDeCo(イデコ)のデメリット……原則60歳まで引き出せず、加入中は口座管理手数料がかかる
iDeCoは老後資金準備を目的とした制度であり、積み立てた資産は原則60歳まで引き出せない点には十分注意しなければならない。加入期間中には、積立を行う月で最低171円、積立を行わない月で最低66円の口座管理手数料がかかり、金融機関によっては手数料が月500円を超える。無視できないコストであり、利用する金融機関の選択も重要だ。
iDeCo(イデコ)の対象者……日本に住む国民年金被保険者の多くがiDeCo(イデコ)の加入対象者
2017年1月の改正により、会社員や公務員、専業主婦・夫などもiDeCoに加入できるようになり、iDeCoの加入対象者は大きく増えた。ただし「国民年金保険料免除者(障害年金受給者等を除く)」「農業者年金の被保険者」など、加入できない人もいる。会社員(国民年金第2号被保険者)は、勤務先の企業年金の有無や内容によって、iDeCoに加入できるかが決まる。
2,iDeCo(イデコ)に加入できる会社員は4パターン
会社員のうち、次のような人はiDeCoに加入できる。企業年金の加入状況によって、掛金の拠出限度額には違いがある。
企業年金のない会社員
勤務先に企業年金制度のない会社員はiDeCoに加入できる。このケースでは、会社員としては最も多い月額2万3,000円(年額27万6,000円)まで掛金を拠出できる。
企業型DC以外の企業年金に加入する会社員
確定給付年金など、企業型確定拠出年金以外の企業年金に加入する会社員もiDeCoに加入できる。企業型DCとは勤務先の会社が掛金を拠出し、従業員が運用商品の選択や資産配分の決定などの運用を行う企業年金制度のことだ。このケースでは、月額1万2,000円(年額14万4,000円)まで掛金を拠出できる。
規約でiDeCo(イデコ)加入が認められた企業型DCに加入する会社員
企業型DCに加入する会社員は、以下の2つの条件を満たす場合のみiDeCoに加入できる。このケースでは、月額2万円(年額24万円)まで掛金を拠出できる。
⑴規約でiDeCoへの加入が認められ、事業主掛金の上限が引き下げられている
⑵マッチング拠出(※2)を行っていない
マッチング拠出とは、企業が拠出する企業型DCの掛金に上乗せする形で、従業員(加入者)自ら掛金を拠出できる仕組みのことだ。マッチング拠出が認められている場合、企業の拠出額以下かつ、企業と従業員の拠出額の合計額が、企業型DCの拠出限度額である月額5万5,000円(企業型DC以外の企業年金制度がある場合は、月額2万7,500円)を超えない範囲の金額で従業員も掛金を拠出できる。
企業型DCを実施する企業のうち、この条件を満たすのは3.6%(2019年3月末時点・後述資料参照)にとどまる。
企業型DCのある会社で働いているが加入対象外の会社員
企業型DCの加入資格は、各企業が職種・勤続期間・年齢・希望者(任意加入)の4つの基準で定めることができる。企業型DCを導入している会社で働く会社員でも、加入資格を満たさない人や、加入を希望しない人(任意加入の場合)は、規約の定めに関わらず、原則iDeCoに加入できる。
掛金拠出限度額は、企業型DC以外の企業年金制度があれば、月額1万2,000円(年額14万4,000円)、他の企業年金がなければ月額2万3,000円(27万6,000円)だ。
3,iDeCo(イデコ)に加入できない会社員とは
企業型DCを実施する企業は、確定拠出年金制度について「①事業主掛金のみ拠出」「②事業主掛金+マッチング拠出」「③事業主掛金+iDeCo加入」のいずれかを企業単位で選択する(下図参照)。
このうち従業員がiDeCoに加入できるのは③を選択した企業のみであり、①または②を選択した企業の企業型DC加入者はiDeCoに加入できない。
※企業型DCと確定給付型企業年金を実施している場合は、それぞれ5.5万円→2.75万円、3.5万円→1.55万円、2.0万円→1.2万円と読み替える。(※事業主数は2019年3月末現在)
企業型DC実施企業のうち、iDeCoと企業型DCの併用が認められているのは3.6%にすぎず、残る96.4%の企業ではiDeCoに加入できない状況だ。
iDeCoと企業型DCの併用には、規約の定めのほか、事業主掛金の上限を月額5万5,000円から、iDeCoの拠出限度額にあたる2万円分引き下げ、3万5,000円とすることが条件となっている。事業主掛金上限を引き下げない限り、その企業型DC加入者全員がiDeCoに加入できないのだ。
iDeCoに同時加入できる企業が少ない背景には、多くの企業が昇格・昇給に伴って事業主掛金を増やすタイプの企業年金制度を採用しており、事業主掛金が3万5,000円を超えている従業員の掛金を引き下げるのは不利益が大きく、従業員の同意を得るのが難しいという事情もある。
iDeCoへの加入が認められない企業では、事業主掛金が少なく拠出可能枠が余っている従業員も含めて、iDeCoに加入できない状態にある。
4,企業型DC加入者も2022年10月以降はiDeCo(イデコ)に加入しやすくなる
このような中で企業型DC加入者のiDeCo加入要件が見直され、2022年10月からはiDeCoに加入しやすくなることが決まった。
企業型DC加入者のiDeCo(イデコ)加入要件はどう変わる?
2022年10月以降、企業型DC加入者は、規約の定めや事業主掛金上限の引き下げがなくても、原則iDeCoに加入できるようになる。
<見直し後の掛金拠出限度額>
企業型DCのみ加入する場合 | 企業型DCと確定給付型 企業年金に加入する場合 |
|
企業型DCの事業主 掛金額(月額) |
5万5,000円以内 | 2万7,500円以内 |
iDeCoの掛金額 (月額) |
5万5,000円−企業型DC 事業主掛金額 ※2万円を上限 |
2万7,500円−企業型DC 事業主掛金額 ※1万2,000円を上限 |
企業型DC以外に企業年金がない場合は「5万5,000円」、企業型DC以外に確定給付企業年金や厚生年金基金など、確定給付型の企業年金にも加入する場合は「2万7,500円」が、それぞれ確定拠出年金全体での掛金の上限額となる。この上限額から企業型DCの事業主掛金を差し引いた金額の範囲内で、加入者(従業員)はiDeCoに掛金を拠出できる。
マッチング拠出とiDeCo(イデコ)を選択できるようになる(併用はできない)
現行ではマッチング拠出を導入している企業型DCの加入者は、iDeCoに加入することはできない。この点についても見直され、2022年10月以降は、マッチング拠出か、iDeCoに加入するかを、加入者ごとに選べるようになる。
マッチング拠出は事業主掛金が上限となるため、事業主掛金の低い企業型DC加入者は、十分な拠出ができないという問題があったが、iDeCoを選択すればより多くの掛金を拠出できるようになる。
マッチング拠出とiDeCo加入はどちらか一方を選択する必要があり、併用はできない。
マッチング拠出とiDeCo(イデコ)加入はどちらが有利?
マッチング拠出とiDeCo加入には一長一短があり、いずれかを選択できるようになる人は、自身にとってどちらが有利かを考えて選ぶ必要がある。
<マッチング拠出とiDeCoの比較>
企業型DCへのマッチング拠出 | iDeCo加入 | |
掛金限度額 (月額) |
・2万7,500円まで ※確定給付型企業年金実施の場合: 1万3,750円まで ・事業主掛金額を上回らない範囲内 |
・5万5,000円− 企業型DC事業主掛金額 (2万円を上限) ※確定給付型企業年金実施の場合: 2万7,500円−企業型DC事業主掛金額 (※1万2,000円を上限) ・事業主掛金が3万5,000円を超える場合: iDeCo掛金額を調整 |
税制優遇 | ・掛金は全額所得控除 (小規模企業共済等掛金控除)の対象 ・運用益は非課税 (特別法人税課税が凍結中のため) |
・掛金は全額所得控除 (小規模企業共済等掛金控除)の対象 ・運用益は非課税 (特別法人税課税が凍結中のため) |
拠出方法 | 給与天引き | 口座振替または給与天引き |
口座数 | 1口座 (企業型DC口座) |
2口座 (企業型DC口座+iDeCo口座) |
口座管理 手数料 | 会社負担 | 加入者負担 |
運用商品 | 提示されるラインアップから選択 | 運営管理機関 (証券会社など)と 取扱商品を自身で選択 |
マッチング拠出では、企業型DC口座ひとつで運用し、運営管理手数料は会社負担となるため、手続きの手間や手数料の面では有利だ。一方で掛金額の上限は事業主掛金額が上限となるため、事業主掛金額が少ない場合は、自身で拠出できる額も少なくなる。選択できる運用商品についても、会社から提示されるラインアップに限られる。
iDeCoに加入する場合、利用する運営管理機関を自身で選ぶことができ、運用商品の選択肢が広がる。ただし企業型DC口座とは別にiDeCo口座を開設する必要があり、口座管理手数料は加入者が負担しなければならない。
加入者が拠出できる掛金は、5万5,000円(確定給付型年金にも加入する場合、2万7,500円)から、企業型DCの事業主掛金額を差し引いた金額、かつ2万円(同1万2,000円)以下となる。企業型DCの事業主掛金が2万円以下(同1万2,000円)であれば、iDeCoに加入したほうが拠出できる掛金は多くなる。
iDeCoに加入することで新たに生じる口座管理手数料の負担は、月1,000円程度(※3)掛金を多く拠出できれば、所得控除による税負担軽減でカバーできる。この点をふまえると、企業型DCの事業主掛金が1万9,000円以下というのが、iDeCo加入を選択するひとつの目安といえる。
※3口座管理手数料171円(毎月拠出時)、所得税率20%の人の場合
年間口座管理手数料:171円(毎月拠出時)×12カ月=2,052円
2,052円÷(所得税20%+住民税10%)=6,840円
→掛金が年間6,840円(月570円)以上増えれば、掛金に対する所得控除による税負担軽減額が口座管理手数料を上回る(実際の口座管理手数料、所得税率によって異なる)。
5,iDeCo(イデコ)や企業年金の内容を理解し有効に活用を
2022年10月以降は、企業型DC加入者の多くがiDeCoに加入できるようになり、これまでiDeCoに加入できなかった会社員の選択肢が広がる。必ずしもiDeCoに加入することが最適な選択とは限らないため、選択肢を比較して判断することが大切だ。
企業年金は、会社負担で老後資金準備ができる、会社員の特権といえるもの。マッチング拠出やiDeCo加入による上乗せもあわせ、利用できる制度はうまく活用していきたい。
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