NISA口座で保有する銘柄は、いつでも売却できる。ただし、一度使用した非課税投資枠を再び使うことはできない。そのため、「売却は年に1回しかできない」という誤解があるようだが、実際には多様な売り方ができる。ここでは、売却と売却以外の選択肢、新NISAへの移行について解説する。

【目次】
1.NISAの概要
2.「NISAの売却は年1回限り」という誤解
3.NISAには売却以外の選択肢もある
4.2024年に新NISAがスタート
5.NISAは5年後を見据えた売却プランを

1.NISAとは?一般NISAの非課税期間は5年、非課税投資枠は最大600万円

NISAとは投資で得た利益が非課税になる税制優遇制度だ。NISAには非課税投資枠という投資金額上の制限と、非課税投資期間という時間的制限が設けられている。

NISAでは120万円の非課税投資枠が年1回付与される

NISA(一般NISA)では、毎年1月1日に新しい非課税投資枠である120万円が与えられる。投資枠とは、NISA口座で新規に株式や投資信託などの金融商品を購入する権利だ。運用中に発生した利益には、税金がかからない。

ただし、一度使ったNISAの投資枠を再び使うことはできない。例えばNISAで50万円分の株式を購入し、同年中に売却したからといって投資枠は120万円には戻らない。また、その年に使わなかったNISAの投資枠は消滅する。使わなかった分を繰り越して、翌年分のNISAの投資枠と合わせることはできない。

NISAの非課税投資期間は5年

NISAの投資枠で購入した金融商品は、5年間非課税で運用できる。5年間で得られた配当金や分配金に本来かかる、約20%の税金が免除されるのだ。また、5年以内に売却した際の値上がり益も非課税になる。ただし、これはNISAで運用することで受けられる恩恵であり、投資しない限り節税メリットはない。

NISAの非課税投資枠は最大600万円

NISAは、年間120万円の投資枠がそれぞれ5年間非課税になるように設計されている。

例えば、初年度にNISAで120万円分の買い付けを行うとする。2年目も120万円投資すると、NISA口座で保有する金融資産は240万円になる。同様に3年目は360万円、4年目は480万円、5年目に600万円になり、この時点でNISAの非課税投資枠は最大になる。6年目には、初年度のNISAの非課税投資期間が終了する。

NISAは2023年までの制度なので、新たな投資枠が与えられるのは2023年までだ。それ以降は、各年の投資枠が5年を迎えるたびに非課税投資枠が減っていく。

NISAでどのくらいの節税になるのか

NISAでは、どのくらい節税できるのだろうか。

たとえば利回りを5%とした場合、120万円の資産は5年後には153万円になり、差益33万円に税率20%を乗じると節税額は6万6,000円だ。年間投資枠が120万円になった2016年から毎年続けた場合、52万8,000円(=6万6,000円×8年)の節税になる。

常に一定の利回りが得られる保証はないが、得た利益が税金によって目減りするかどうかで、手元に残る金額が大きく変わることがわかる。

2.「NISAの売却は年1回限り」という誤解

NISAは始め方や金融商品の買い方ばかりがクローズアップされるが、利益を確定する売り方も重要だ。

NISAの売却は年に何回でも行える

よく「NISAでは保有銘柄を売却できるのは年1回限り」と説明されるが、この表現は厳密にいうと正しくない。「売却したら終わり」となるのは、使用した枠のみだからだ。

例えば2020年1月にA商品50万円、B商品40万円、C商品30万円の合計120万円分の新規投資を行うとする。その後A商品が値上がりしたため、6月に売却した。ここで消滅するのは、2020年の50万円分の投資枠だ。同年10月にB商品も売却した。これで年2回売却したことになるが、制度上は問題ない。2020年の投資枠はまだ30万円分残っており、5年間保持できる。前年までに購入した金融商品を一度に売却することも可能だ。

このように、NISA口座での売却は年に何回でも行える。運用において売るタイミングは非常に重要なので、誤解のないようにしておきたい。

NISAで売却をしない年があっても良い

NISAで非課税になる条件は、1年以内に買い付けをして5年以内に売却することだ。したがって毎年、新規で購入しないと投資枠が無駄になってしまうが、毎年売却する必要はない。購入してから5年目の12月末までであれば、売却しない年があってもかまわない。

初心者は、買った商品をすべて同時に売却する傾向があるが、「一部だけ売却する」という方法もある。例えば、「資産の40%を投資に回す」という方針で運用を行っていたところ50%を超えてしまった場合に、保有している金融商品の一部を売却して現金化し、40%に戻すのだ。

3.NISAの非課税期間終了時は売却以外に「移管」や「ロールオーバー」の選択肢もある

通常の投資であれば「買った銘柄をいつ売るか」だけ考えればよいが、NISAの場合は「売却する」「移す」「繰り越す」という選択肢がある。「移す」は課税口座への移管、「繰り越す」はロールオーバーを指す。それぞれについて、詳しく見ていこう。

NISAの資産を売却せずに課税口座に移管する

NISA口座で購入してから5年経過した商品の選択肢は、売却だけではない。「課税口座に移管して保有し続ける」という選択肢もある。

新しい取得単価は移管された時点の価格が採用されるため、NISAでの非課税効果は維持され、移管後さらに値上がりした分の利益に対してのみ課税される。

ただし、損失が発生している状態でNISAから課税口座に移管する場合は注意が必要だ。値下がりした価格が新たな取得価格となるため、そこから値上がりすると課税額が増えてしまう。損失が発生している状態でNISAの非課税期間を終えた場合は、売却して損失を確定するかロールオーバーするのがよいだろう。

NISAで売却せずにロールオーバーする

ロールオーバーとは、新たな非課税投資枠を使って繰り越す方法のことだ。

例えば、NISA口座で購入後5年経過した金融商品が50万円分ある場合、その年の投資枠のうち50万円使って非課税で保有を継続できる。つまり、最長10年間非課税で運用できるのだ。

ロールオーバーしたい金額が120万円を超えていても、NISA口座に移すことができる。ただし、その年の投資枠を使い切ってしまうため新規投資はできない。

この方法が使えるのは、2018年までに買い付けた保有銘柄である。NISAは2023年までの制度であり、ロールオーバーも2023年末までしかできないからだ。

4.2024年に新NISAがスタート

NISAは2023年に終了するわけではなく、2024年から「新NISA(仮称)」に引き継がれる。

新NISAの仕組み

新NISAは2階建て構造になっており、1階部分は現行のつみたてNISAと同じ対象商品に年間20万円、2階部分は現行の一般NISAから一部を除外した商品に年間102万円を上限に投資できる。

原則として2階部分は1階部分で積立投資をした人が利用できることになっているが、これまでNISA口座を開設していた人や上場株式などの取引を行ったことがある人は、最初から2階部分の利用が認められる。

現行NISAで保有している銘柄の取り扱い

現行のNISAを利用している場合は、保有している銘柄の扱いが気になるだろう。新NISAが始まっても、「売却する」「課税口座に移す」「ロールオーバーする」という3つの選択肢は変わらない。ロールオーバーは、2024年の新NISA枠を使うことになる。

新NISAの投資枠は1階と2階で合計122万円だが、時価が122万円を超えていても全額ロールオーバーできる。新NISA枠でロールオーバーする場合は、2階の102万円から先に埋めていき、2階の枠を超えたら1階の枠を使う。

5.NISAは5年後を見据えた売却プランを

NISAの売却に関する仕組みについて解説した。NISAでは、通常の資産運用よりも出口戦略が重要になる。5年以内に一気に売るか徐々に売るか、5年後に課税口座に移管するかロールオーバーするか、しっかりプランを立てて臨みたい。

NISAは非常に魅力的な制度なので、できれば非課税投資枠は最大限活用したい。とはいえ、資金が不足している時や買いたい商品がない場合は、無理に投資枠を使い切る必要はない。つみたてNISAやiDeCoといった他の非課税制度と比較しながら、自分に合った方法を選ぶとよいだろう。

篠田わかな
執筆・篠田わかな
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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