投資信託は基本的にいつでも売却でき、個人年金保険やiDeCo(個人型確定拠出年金)よりも換金性が高い。では、どのようなタイミングで売るのがベストなのだろうか?目安になるポイントややってはいけない売り方、売却時のコスト、リスクを分散できる売却方法などについて解説する。
目次
1.投資信託の売り時の目安
2.やってはいけない投資信託の売り方
3.投資信託を売る時にかかる手数料と税金
4.投資信託を段階的に売るという手法も
5.さまざまな情報をもとに売り時を見極めよう
1.投資信託の4つの「売り時」とは
投資信託に限らず、金融商品は売り時が難しい。買い方をいくら工夫しても、利益を決めるのは売り方だ。安く買って高く売るのが投資の鉄則だが、売りのタイミングを見極めるのはプロのトレーダーでも難しい。大切なのは、自分なりのルールを設定することだ。ここでは、投資信託の売り時の目安を紹介する。
⑴目標額に達したとき
投資信託を購入するときに、いつまでにどのくらいの値上がりが見込めるかを想定しておく。「3ヵ月以内に投資信託の基準価額が何円になったら」「年末までに評価額が50%増になったら」などだ。
希望的観測で決めるのではなく、過去のトータルリターンの実績、基準価額の推移や騰落率、リスクとリターンのブレ幅を表す標準偏差、リスクに対するリターンの大きさを表すシャープレシオなどを参照して設定する。
期間も重要だ。アクティブ型投信とインデックス型投信では時間軸が異なる。アクティブ型投資信託はファンドマネージャーが銘柄や投資先を決め、ベンチマークを超える運用成果を目指すファンドだ。それに対してインデックス型投資信託は、日経平均株価など特定の指標に連動するファンドである。インデックス型は長期投資が前提なので、5~10年を目安にしたい。
積立投資の場合は計画を立てやすい。証券会社や投資信託の評価機関などで提供されるシミュレーションツールを使えば、目標金額に対して毎月いくら積み立てる必要があるかを試算できる。設定した目標額は、忘れないようにメモしておくとよいだろう。
⑵値上がりが期待できる前提がなくなったとき
この投資信託は値上がりすると見込んだ前提に変化があった場合は、早めに売却するのも手だ。例えば、政府から再生可能エネルギー事業者に対する支援政策が発表されたため関連する投資信託を買い付けたが、その後政策の変更があった場合などだ。
投資信託を買う理由がなくなれば、長期保有する理由もなくなる。理由なく投資信託を持ち続けることは、他への投資で得られる利益を失うことにつながる。
⑶ポートフォリオの資産比率を調整するとき
リバランスのために投資信託の一部を売却して、他の資産に置き換える方法もある。
例えば、株式と債券に資産を半分ずつ投資する計画を立てたとする。株式型投信100万円と債券型投信100万円でスタートし、その後価格変動によって160万円と80万円に変わると、リスク分散を目的として1:1でポートフォリオを組んだのに2:1になってしまう。
そこで株式型投信の一部を売却し、債券型投信を購入することで元の資産比率に戻す。これがリバランスだ。ただし、バランス型投信ならリバランスを自動的に行ってくれるため、自分で調整する必要はない。
⑷NISAの非課税期間が終了するとき
少額投資非課税制度であるNISAは、非課税期間が終了するタイミングがあらかじめ決まっているので、それが売却の機会になる。一般NISAは、買付から5年後の年の最終取引日で非課税期間が終了する。つみたてNISAは20年後だ。
もちろん、それより前に売っても構わない。非課税期間終了後は売却、課税口座への移管、一般NISAなら新しい投資枠を使っての繰り越し(ロールオーバー)のいずれかを選択する。値上がりしている場合は売却して利益を確定してもよいし、値下がりしている場合は継続保有して値上がりを待つこともできる。
2.やってはいけない投資信託の売り方
投資信託の売り時は個人の価値観や投資方針によって変わるが、おすすめできない売り方もある。
投資信託の短期的な下落による投げ売りはNG
投資信託でやってはいけないのは、短期的な下落相場で慌てて投げ売りをすることだ。投資信託は基本的に長期保有を前提としており、為替取引や商品先物取引のような投機的な売買には適していない。値動きの激しい金融商品では損失の拡大を防ぐために早期の損切りが推奨されることもあるが、投資信託は長期的に収益が望めない場合のみ損切りするのが望ましい。
投資信託の積立投資は長期分散が鉄則
特に少額で投資信託を買い付ける積立投資では、安易な損切りは避けたい。積立投資は、変動する買付価格を平準化するための投資手法である。徐々に元本を増やしていくものであり、リスクを分散できる反面リターンもそれなりだ。
したがって投資信託の一時的な値下がりを見てすぐに損切りをしてしまうと、何の成果も得られないまま終わることになる。「積立型の投資信託は保有期間が長くなるほど収益が安定する」という金融庁のデータもある。長期的な視点を忘れないようにしたい。
ハイリスク・ハイリターンの投資信託は短期売買向け
投資信託の中には、短期売買向きのものもあるので注意したい。レバレッジ型投資信託やインバース型投資信託などだ。レバレッジ型は基準となる指数の数倍の変動率を目標とするファンドで、指数と反対に数倍の動きをするファンドがインバース型である。
例えば「日経平均レバレッジ・インデックス」は、日経平均が100円上昇すればファンド価格は200円、300円上昇する。大きな値動きが期待できるが、リスクも大きい。このような投資信託はこまめに値動きをチェックしつつ、いざというときに素早く売却できるよう準備しておこう。
3.投資信託を売る時にかかる手数料と税金
投資信託には販売手数料や信託報酬のほか、売却時にかかる手数料や税金もある。
投資信託を売る時にかかる手数料……信託財産留保額
投資信託は株取引などと違って、取引にかかる費用が複数ある。売却時にかかる手数料の代表は、「信託財産留保額」だ。
投資信託は、投資家が資金を出し合って運用する。解約することで発生する費用は、保有し続ける投資家に迷惑がかからないように解約者が負担する仕組みになっている。投資信託の信託財産留保額は、「基準価額に対して何%」といった形で解約代金から差し引かれる。一般的には0.3%程度だが、インデックス型投信など信託財産留保額のないファンドも少なくない。
投資信託を売る時にかかる税金……譲渡所得税
投資信託を売ることによって差益が発生する場合は、「譲渡所得税」がかかる。税率は、所得税・住民税・復興特別所得税を合計すると20.315%。10万円の売却益があれば、約2万円が税金で消える計算だ。
源泉徴収ありの特定口座では、販売会社が源泉徴収をしてくれるので投資家は何もする必要がない。源泉徴収なしの特定口座もしくは一般口座では、投資家自身が確定申告をすることになる。
4.投資信託の売却タイミングが難しいときは段階的に売るという手法も
投資信託は銘柄の選択や買付のタイミングが難しいが、それよりも難しいのが売却のタイミングだ。定期的に一定額を買い付けることで高値掴みのリスクを分散する買い方が「ドル・コスト平均法」だが、これを売却時に応用したものに「定期売却」や「長期分割売り」といった手法がある。
「定期売却」や「長期分割売り」を行えば、売るタイミングを見誤るリスクを抑えられる。SBI証券や楽天証券、フィデリティ証券、SMBC日興証券では、すでに定期売却サービスがリリースされている。
定期売却サービスは、受取月を「毎月」と「隔月」から選べ、年2回のボーナス月設定もできるものもある。受取方式は「金額指定」「定率指定」「期間指定」から設定でき、金額を指定すると「毎月5万円」などの定額を受け取れる。
しかし、下落相場で定額売りをすると予想よりも多くの口数を手放すことになるため、資産計画を立てにくくなる。これを踏まえて、証券会社によっては投資信託の評価額に対する比率を指定する方式や、受取期間を指定して受取月数で按分する方式もある。
5.投資信託はさまざまな情報をもとに売り時を見極める
かつて投資信託は、限られた情報をもとに一括で売却するしか方法がなかった。今ではさまざまなニュース・レポートを入手でき、見やすい分析ツールを使いながら多様な売り方ができる。それらを使いこなして、売り時を見極めてほしい。
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