研究チームは、このウイルスの広がり方を、遺伝子の系統解析という方法で明らかにしました。
ウイルスが血液を通じて体中に広がる様子は、まるで小さな火種が再び大きく燃え広がっていくかのような、非常に衝撃的な結果でした。
「迅速剖検」はHIVを根絶する鍵になり得る

今回の研究によって明らかになったことの中でも特に重要なのは、「HIVは薬で抑えられている間も体の奥深くで生き続けている」という事実です。
これまでHIVの治療が進んだことで、薬を毎日飲み続ければ、感染していても健康に暮らせるようになりました。
しかし、今回の研究は、薬を飲んでいる間はHIVがただ静かになっているだけで、実は体のあらゆる臓器の奥深くに潜んでいることを明確に示したのです。
そして、その潜んでいるウイルスが体内に残っていることで、思わぬ問題が起こる可能性が指摘されています。
例えば、治療を続けていてもHIV感染者では、心筋梗塞や脳卒中、がんといった病気を発症するリスクが、HIVに感染していない人と比べてやや高くなることが報告されています。
また、一部の患者さんでは記憶力が落ちるなどの認知機能の問題が生じることも報告されています。
このような健康問題がなぜ起こるのかというと、薬で抑えられていても体内に潜伏しているHIVが、免疫システムに小さな炎症を起こし続けているからだと考えられています。
特に脳など重要な臓器に潜伏しているウイルスは、慢性的な炎症を引き起こすことで、こうした体へのダメージを長期的に与える可能性があります。
つまり、HIVを血液検査で検出できないほど抑えることは重要ですが、それだけでは十分とは言えず、体内に潜んでいるウイルスをいかにして取り除くかが、今後の治療で非常に重要な課題になっているのです。
では、どうすれば体に潜んだウイルスを根本的に退治できるのでしょうか?