特に研究チームは、ウイルスが持つ重要な遺伝子である「エンベロープ遺伝子」が、欠けたり壊れたりせずに完全な形で、調べた28の部位すべてに存在することを確認しました。

つまり、ウイルスが生き延びて増殖するために必要な遺伝子が、全身の広範囲の臓器に潜んでいたのです。

一部の遺伝子は欠けていましたが、多くのウイルスが完全な遺伝子を保っていたという事実は、体内で再び活発に増えられる状態にあったことを示しています。

ただし、今回の研究はあくまで遺伝子の「形」だけを調べたものであり、実際にこれらのウイルスがすぐに増殖を始められる能力を持っているかどうかまでは調べていません。

この解析で特にHIVが多く潜んでいることが分かったのは、腸やリンパ節といった免疫細胞の集まる場所でした。

しかし、それら以外にも脳や肝臓、腎臓、脾臓など、多くの臓器からもウイルスが検出されました。

このことから、薬による治療が続いている間は静かに眠っているものの、ウイルスは広い範囲でひそかに生き残っていると考えられます。

また今回の研究には、別の重要な発見がありました。

先にも述べたように、参加した患者さん6人のうち2人は、亡くなる前に自らの意思でHIV治療薬を飲むのを中止していました。

薬を飲まなくなればウイルスは再び増えることが予想されたため、この状況は研究チームにとって、薬の効果が切れた時に体内で何が起こるかを観察する絶好のチャンスになりました。

実際、この2人では薬を止めてからすぐに血液中のHIVが再び現れ、急激に増えました。

さらに興味深いことに、亡くなった後に採取した体内の組織の解析から、この再び現れたウイルスの多く(65〜80%)が非常に似た遺伝子配列(ほぼ同じ型)を持っていることが判明しました。

そして、同じ型のウイルスが血液を通じて体内の多数の組織に再び広がっていることが確認されたのです。

これは、薬が効いていた間は静かに潜んでいたウイルスが、薬がなくなった途端に血液を通じて再び全身へと移動し、広がっていった可能性を示しています。