このとき、計算によると、1秒間に約20億個もの有機分子が偶然、この原始細胞にぶつかってくることになります。

一方で、生命が誕生するためには、この20億個の中から毎秒わずか10個ほどの「特別な分子」だけを取り込めれば十分だということが分かっています。

つまり、材料となる分子の数やエネルギーの量そのものは、十分すぎるほど豊富に存在していたのです。

しかし問題は、その膨大な分子の中から、「生命に役立つ特別な分子(情報をもった分子)」だけを効率よく選び出して取り込み、なおかつそれを壊れないように安定して長期間保つことが難しかった、ということなのです。

以上の結果をまとめると、地球に生命が誕生したのは単に材料やエネルギーが豊富だったというよりも、「情報を長く安定して保持する仕組み」があるかどうかのほうが遥かに重要ということになります。

つまり生命誕生の原動力は「情報の壁」をどのように乗り越えるかにかかっていたわけです。

地球生命はエイリアンに由来するとする「指向性パンスペルミア説」

地球生命はエイリアンに由来するとする「指向性パンスペルミア説」
地球生命はエイリアンに由来するとする「指向性パンスペルミア説」 / Credit:Canva

今回の研究は、生命が自然に誕生することがどれほど難しいかを、数学的な視点からはっきりと数字で示したという点で、とても画期的です。

これまでの科学では、「生命が偶然に生まれるのは奇跡のようなものだ」と言われてきましたが、具体的な数字を使ってその難しさを説明することはあまりありませんでした。

ところが今回の研究では生命が誕生するための「情報」が積み上がる難しさを数学的に分析しました。

その結果明らかになったのは、「生命が誕生するためには、想像以上に高い『情報の壁』を越えなければならない」ということでした。

本を完成させるには、ただ紙とインクという材料があるだけでは不十分で、どのような順序で文字を並べるかという情報が必要です。