例えば、複雑で無秩序な化学反応の中に、一定の規則性や安定したパターン(「アトラクター」と呼ばれます)が自然に現れることはないのか、ということが重要な研究テーマになります。
もし、ある特別な仕組みで化学反応が自然に安定していくのであれば、これまで考えられていたよりも、生命の誕生は「必然的」な出来事で、思ったより簡単に起こる可能性もあります。
つまり、偶然だけに頼るのではなく、「何らかの自然な仕組み」が働いていた可能性を探ることが今後の研究の大きなポイントになるでしょう。
このように、今回の研究は生命の起源という古くて難しい謎に対して、新たな切り口を示すとともに、未来の研究が目指すべき方向性を明確に示してくれました。
さらに、この研究の結果は、私たちにもう一つの大きな可能性を考えさせることにもなりました。
それは、「地球の生命は、そもそも地球の外からもたらされた可能性があるのではないか?」という考え方です。
このアイデアは少しSF(サイエンス・フィクション)のように聞こえるかもしれませんが、実は科学の世界でも「指向性パンスペルミア説」として真剣に検討されてきた仮説の一つなのです。
この仮説は、DNAの二重らせん構造を発見して有名になったフランシス・クリックらが提唱したもので、「高度に進化した宇宙の別の星の文明が、自分たちの星が絶滅しそうになったときや、科学的な興味のために、生命の種(微生物など)を地球のような惑星に意図的に送り込んだ可能性がある」と考えるものです。
エンドレス氏らの論文でも冒頭で、この指向性パンスペルミア説を「推測的(はっきりした証拠はないが、論理的にはあり得る)」な仮説の一つとして紹介しています。
ただし同時に、研究チームはこの仮説を慎重に扱うべきだと考えています。
なぜなら、生命の起源を高度な宇宙文明という未知の存在に求めてしまうと、説明が非常に複雑になってしまうからです。