シミュレーションの結果、分子の状態がわずか1秒でリセットされるような環境では、最初の生命が誕生するまでに宇宙の年齢の何兆倍も上回るほどの時間がかかってしまうことがわかりました。
また、1年ほど情報が維持されたとしても、生命誕生には現在の宇宙年齢の数百万倍という、とても長い時間が必要になってしまいます。
つまり、単純に偶然だけに任せていては、生命誕生に必要な情報が集まる可能性はほとんどない、という結果が示されました。
それでは、どのくらいの期間、情報を漏れないように保つことができれば生命の誕生が可能になるのでしょうか?
研究者が詳しく試算したところ、5億年という限られた時間の中で最初の生命に必要な情報を積み上げるためには、情報を約2.5億年という非常に長い期間保持する必要があることがわかりました。
しかし、混沌とした原始のスープの中で、このように長い期間、情報が崩れず安定して保たれることは極めて難しいと考えられています。
つまり、ある意味で、この「2.5億年が必要」とする結果は、原始のスープさえあれば運が良ければ生命が誕生するという既存の仮説に対する強烈なNOを突き付けているのです。
(※ランダム性の高い原始の地球で2.5億年も情報をコツコツと積み上げ続け、守り続けることは常識的に不可能だからです)
そこで、科学者たちは、生命誕生のためには、完全にランダム(偶然)な状態から一歩進んで、何らかの「偏り(少しだけ有利な条件)」が必要ではないかと考えました。
この偏りとは具体的にどのようなものでしょうか?
研究では、主に以下の3つの条件が挙げられています。
1つ目は、物理的・化学的な助けがあることです。
たとえば、細胞膜のような膜で仕切られた小さな空間があれば、情報が散らばるのを防ぐことができます。
また、昼と夜や乾燥と湿潤など周期的に繰り返す環境変化があると、情報が蓄積されやすくなります。