こうした証拠から考えると、生命が地球に登場するまでには約5億年という時間があったことがわかります。

(※この約5億年という時間は絶対的なものではなく、あくまでも生命が誕生するまでに与えられた「目安」として設定されたものです)

そして生命が地球に出現するには、この約5億年の間に、「10億ビット」という膨大な情報を積み上げていく必要があります。

では具体的に、これを計算するとどれくらいの速さで情報を蓄積する必要があるのでしょうか?

研究チームが計算した結果、5億年で10億ビットの情報を蓄積するためには、1秒あたりおよそ6.34×10^-8ビットという、とてもわずかな速度で情報を積み上げればいいことがわかりました。

これを1年間に直すと、約2ビットほどの非常にゆっくりしたペースになります。

つまり、理論的にはこの速さで少しずつ情報を蓄積していけば生命の誕生に必要な情報量に達することが可能です。

しかし現実はそれほど単純ではありません。

これはあくまで理想的に順調に情報が蓄積された場合の話であり、実際にはさまざまな困難があるのです。

原始のスープの中では、材料がランダムに衝突し合い、時にはせっかく積み上げられた情報がすぐに壊れてしまうことも考えられます。

こうした状況では、情報は3歩進んで2歩戻る、というように、なかなか前へ進みません。

これを研究者たちは、「バイアス付きランダムウォーク(多少は前に進む傾向があるランダムな動き)」というモデルでシミュレーションしました。

このモデルで特に重要になったのは、「情報が蓄積される速さ」と「蓄積された情報がどれくらい長く保たれるか(情報の維持時間)」の2点でした。

情報の維持時間が短ければ、せっかく積み上げられた情報もすぐに壊れてしまいます。

一方で、この情報がある程度長く保持できれば、次の情報を加えるときに有利になるはずです。

では、どのくらいの期間情報が維持されなければ生命が生まれるほどの情報量にならないのでしょうか?