これまでのようにモーターや機械的な仕掛けを使わないため、故障が少なく、消費する電力も非常に小さいことが期待されています。

とはいえ、これまでの液晶レンズにも大きな課題がありました。

従来の液晶レンズは、小さく、厚みがあり、実際にメガネとして使うには視野(はっきり見える範囲)も狭かったのです。

そのため、実用的なメガネとして日常的に使うには難しいという問題が指摘されていました。

今回の研究チームは、こうした従来の液晶レンズの弱点を克服するために、レンズを薄く、大きく、そして実用的な焦点調整ができるような設計を目指しました。

その結果、直径約10mm程度の範囲内でピント調節が可能な試作レンズを作ることに成功しました。

また新たな液晶レンズは従来のような分厚いガラス基板(0.3 mm)を用いた場合と比較して、動作に必要な電圧を約15分の1に大きく減らすことができました(40 Vrmsで約8.1πの位相変化を達成)。

次に研究チームは、この試作レンズを実際にメガネフレームに組み込み、日常的に使えるかどうか性能をテストしました。

メガネフレームには小型の電池と電子回路が組み込まれていて、ボタンを押すとレンズに電圧がかかり、液晶の分子の向きを変えてピントを切り替えます。

この実験の結果、ボタンを押してから焦点が切り替わるまでの時間は約5秒ほどでした。

切り替わった後、約10mmの作動範囲内では遠くも近くもはっきり見えることが確認できました。

従来の遠近両用レンズでは、視線を動かして見る位置を変えなければならないため、これは大きなメリットです。

もちろん、現段階ではまだ課題も残っています。

現在の試作レンズは焦点を切り替えられる範囲が約10mm程度と狭いため、今後さらに実用的にするには、レンズの作動範囲を広げる必要があります。

また、ピントが合うまでの約5秒という時間も、実際に使う上ではもう少し短縮する必要があるでしょう。