もっとも、これだけで原始ブラックホールの存在が証明されたわけではありません。
実際に観測されている映像は原始ブラックホール誕生の瞬間ではないからです。
また今回観測されたQSO1のブラックホールが仮に原始ブラックホールだった場合でも太陽の5000万倍という質量に達する過程で、急速に物質を吸い込んだり、他のブラックホールと合体したりして成長した可能性もあります。
では、こうしたブラックホールの謎を今後どのようにして解き明かしていくのでしょうか。
一つの方法として、JWSTや今後開発されるさらに高性能な望遠鏡を使って、他の「リトル・レッド・ドット」や遠い場所にあるクエーサー(明るく輝く銀河の中心核)を詳しく観測し、質量や化学的な特徴を比較していくことが挙げられます。
複数の天体で同じような巨大ブラックホールの証拠が見つかれば、原始ブラックホールや直接崩壊ブラックホールといった仮説の真偽に一歩近づけるはずです。
さらに、次の10年以内には次世代の「重力波望遠鏡」と呼ばれる観測装置が登場し、宇宙の初期から現代までにブラックホール同士が衝突して合体したときに生じる「重力波」という時空の波を観測できるようになると期待されています(ただしこれは今回の研究とは直接関係のない将来的な展望です)。
これにより、宇宙初期にどれくらいブラックホールが存在したのかをさらに詳しく調べることができるかもしれません。
もし原始ブラックホールが実際に存在することが証明されれば、それは宇宙の歴史や物理学の基本的な考え方を根本から変える重大な発見となります。
つまり、これまでの「銀河ができてからブラックホールが育つ」という考え方ではなく、「ブラックホールが最初に生まれ、その周囲に銀河ができた」という全く新しい宇宙像が生まれる可能性があるのです。
原始ブラックホールは、星のように自分で光ったりせず、見えないまま宇宙空間を漂います。しかも重力があるため、周囲にある星や銀河に影響を与えることができます。