今回の研究で注目された「QSO1」も、そうしたリトル・レッド・ドット(LRD)の一つです。
このQSO1は赤方偏移(光が宇宙の膨張によって赤く引き伸ばされる現象)が7.04という非常に遠い天体で、宇宙が誕生してから約7億年後の姿を私たちに見せてくれています。
通常、このように遠い天体の光は非常に弱く、詳しく調べることは困難です。
ところが、幸運なことにQSO1の手前には「Abell 2744」という非常に巨大な銀河の集まり(銀河団)がありました。
銀河団のような巨大な天体は強い重力を持っているため、その背後から届く光の通り道が曲げられ、地球から見るとまるで虫眼鏡を通したように光が拡大されます。
この現象は「重力レンズ効果」と呼ばれ、宇宙の天然の虫眼鏡のような役割を果たします。
ケンブリッジ大学のイグナス・ユオジュバリス博士らの国際研究チームは、この重力レンズ効果を利用し、JWSTの高性能な赤外線の分光観測装置を使ってQSO1を詳しく調べることに挑戦しました。
分光観測とは、光を色(波長)ごとに分けて、その天体がどのような成分でできているか、またどのような動きをしているかを調べる方法です。
観測の結果、QSO1の内部にあるガスが、何か重い天体の周りを回転していることがわかりました。
これは、中心に非常に重い物体があって、その強い重力に引き寄せられたガスがその周囲をぐるぐると回っていることを意味しています。
より詳しく解析すると、この中心にある重い物体の質量は太陽の約5000万倍もあり、非常に巨大なブラックホールであることが判明したのです。
さらに驚くべきことに、このブラックホールが存在する銀河(母銀河)にある星の質量を最大限に見積もっても、その星々の合計の質量はブラックホールの半分にも満たないことが分かりました。
普通は銀河全体の質量のごく一部しかブラックホールの質量は占めませんが、QSO1の場合、ブラックホールが銀河よりも重いという異常なバランスになっています。