私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールの質量は銀河全体の質量の30万分の1程度であると考えられており、このQSO1がいかに特異な存在であるかが理解できるでしょう。
このことから研究チームは、この天体を「最も『裸』に近い巨大ブラックホール」と表現しています。
通常なら銀河が主役でブラックホールがその中に隠れているはずなのに、この天体ではブラックホールだけが目立っていて、銀河の存在感は極めて薄いのです。
銀河より先にブラックホールが誕生した?

では初期宇宙にぽつんと存在する「裸のブラックホール」――この発見が意味するところは何でしょうか?
現在、天文学者が注目している仮説のひとつが、「重い種(ヘビーシード)」という考え方です。
この考え方は、ブラックホールが星からゆっくり育つのではなく、宇宙が始まったばかりの非常に早い段階から、すでに巨大な状態で存在していたというものです。
「重い種」の候補として、研究者たちは「直接崩壊ブラックホール(DCBH)」と「原始ブラックホール(PBH)」という二つのモデルを挙げています。
まず「直接崩壊ブラックホール(DCBH)」とは、初期宇宙に存在した巨大なガスのかたまりが、星を経ることなく直接ブラックホールになったものです。
この過程が起こるためには非常に強い紫外線が近くに存在することが重要ですが、QSO1の観測ではそのような紫外線の強い光は確認されていません。
もう一つの可能性が、「原始ブラックホール(PBH)」と呼ばれるものです。
これは宇宙が誕生した直後の非常に密度が高かった時期に、密度のわずかな偏りが重力で一気に崩れ落ち、ブラックホールが誕生したという仮説です。
原始ブラックホールは宇宙が誕生してからたった1秒以内に生まれたとも言われ、非常に早くから宇宙に存在していた可能性があります。