しかし広井の説明では、「紛争の減少」や「国際格差の縮小」に至る道は示されておらず、単なる希望の表明でしかなく、希望的観測(wishful thinking)がのべられたにすぎない(同上:4)。
「グリーン成長・協調シナリオ」(シナリオ2)についてこの「シナリオ2」も、広井は「先進国・途上国ともに経済発展が持続するとともに、地球全体のCO2排出も減少し、・・・・(中略)先進国・途上国間の国際格差は減少する」とみており、高い評価をしている。この条件としては「国際的なレベルでの協力的意識・行動が際立って重要である」(同上:5)とものべている。
ただここでも「国際的なレベルでの協力的意識・行動」を促進する方法については皆無であり、国際的なコンフリクトが無くなる方法がいくらかでも示されないと、その先に議論は進まない。
「ローマクラブ」の手法に新しい要因を加えたシミュレーション1972年の「ローマクラブ」の手法と比べて、2025年の「政策提言グローバル版」で加えられた新しい要因とは、地球温暖化、経済と格差、先進国と途上国、ウェルビーイングを含む社会的側面などの指標を意味するが、AI活用といえども解決できない根本問題が残っているように思われる。
「政策提言グローバル版」のメンバーの一人である嶺によれば、使用した社会指標は149、それらの間の因果関係数は333になった(嶺、2019:2)。
これらを踏まえて、AI活用グローバル版の更なる深化に必要な課題を2点に絞ってまとめておこう。
「GDPと二酸化炭素の排出量が正の相関」を受け止めたシナリオか一つは、図2で示したGDPと二酸化炭素の排出量が正の相関を示すことにどのように対処するかである。
この最悪の見本はシナリオ6「経済成長至上シナリオ」ではあるが、「経済・環境面での比較的良好なパフォーマンス」や「経済の成熟化」でも、GDPと二酸化炭素の排出量の間には正の相関があることを忘れてはいけない。