つまりY幼生が「ナメクジのような柔らかな幼生に変態する」理由は、「寄生生活を送るため」である可能性が浮上したのです。
しかしここで、ひとつ大きな疑問が残ります。
Y幼生は本当に寄生性フジツボの仲間なのでしょうか?
それとも、似たような寄生スタイルに別々の系統の生き物が偶然たどり着いたのでしょうか?
もし前者ならY幼生は遺伝的にも寄生性フジツボの仲間であり、後者ならばY幼生は寄生性フジツボとはまったく別の系統の生物で、寄生の仕方が偶然に似てしまったということになります。
そこで研究者たちは、Y幼生とフジツボ類が系統的にどの程度近いのか、遺伝子を詳しく調べてその関係を明らかにすることにしました。
遺伝子解析が明かす、Y幼生とフジツボの複雑な血縁関係

Y幼生は遺伝的にも寄生性フジツボ類だったのでしょうか?
謎を解明するため研究者たちはY幼生を3600個体以上集め、遺伝子解析(トランスクリプトーム解析)を行い他の甲殻類のデータと比較することで、進化の系統樹のどの位置にいるかを調べることにしました。
するとY幼生は甲殻類ではあるものの、現在知られているフジツボ類(Cirripedia)とは「姉妹群」という非常に近い関係にあるものの、直接のフジツボ類の一員ではないことが確認されました。
簡単に言えば、Y幼生はフジツボ類のいとこのような存在で、非常に近いけれども別のグループにあたる生物だったのです。
このように、Y幼生はフジツボのいとこのような関係にありましたが、もう一つ重要な疑問が残っています。
それは、「Y幼生の持つ寄生能力や変態は、一体どのように進化したのか?」ということです。
実は、Y幼生のキプリス幼生は特別な体の構造を持っています。