こうした脳波パターンは「痛みが起こっていることを知らせる合図」として使うことができたのです。

この方法を使うと、AIは脳波から患者さんの痛みの強さを非常に正確に予測できることが分かりました。

その後、研究チームは、見つけた「痛みの指紋」を使って、痛みが出た時だけ自動的に電気刺激を行う「閉ループ刺激」という仕組みを作り上げました。

普段は電気刺激を止めておいて、脳が痛みを感じた時だけ瞬時に刺激を与えるのです。

この方法は、従来の「常に刺激を与え続ける方法」と比べて、脳にかける負担を少なくできる可能性があります。

そしてこの仕組みが実際に効果があるかを確かめるため、研究チームは、患者さんにも評価する人にも刺激の種類を知らせない「二重盲検試験」という厳密な方法を使って、本物の刺激と偽刺激の効果を比較しました。

偽刺激というのは、患者さんには刺激が与えられているように感じさせますが、実際には電気を流さない(0mA)条件、または一部の患者さんでは刺激と無関係な場所に非常に弱い刺激を与える条件でした。

その結果、本物の閉ループ刺激を使った期間には、痛みが明らかに和らぐことが分かりました。

具体的には、平均で痛みの強さが約50%も減り、患者さんの中には、痛みがほぼ完全に消えてしまったという報告もありました。

それに対して、偽刺激を使った期間では痛みが逆に平均11%も強くなってしまいました。

このことから、閉ループ刺激が本当に効果を発揮していることがはっきりしました。

さらにこの閉ループ刺激の利点として、常に刺激を与え続ける必要がないことが挙げられます。

実際に刺激が行われたのは、全体の時間のわずか7〜55%程度でした。

つまり患者さんの脳は、痛みが出そうになった瞬間だけ「ピンポイント」で刺激を受け、普段は休んでいるような状態です。

これは例えるなら、火事が起こりそうになった瞬間だけ消火器が作動するような「賢い仕組み」と言えるでしょう。