従来のDBS治療では、多くの患者さんに対して「同じ場所」を「同じように」刺激し続けるのが主流でした。

しかし、最新の研究では「痛みを感じたり抑えたりする脳の回路は一人ひとり違う」「人によって効く場所もタイミングも全く異なる」ということが分かってきています。

これは「脳の個性」と言ってもよい現象です。

さらに、痛みを制御する脳内ネットワークも単純な一カ所ではなく、複数の部位が複雑に連携しています。

そのため、すべての人に同じ治療法が効くとは限りません。

最近では、個々の患者さんの脳活動をリアルタイムで測定し、脳が「痛みサイン」を出した瞬間だけピンポイントで刺激を与える「閉ループ型(自動制御型)」という新しい発想が登場しています。

この「オーダーメイド型の脳刺激」は、患者さんごとに異なる痛みの原因や脳の状態に合わせて、治療を最適化するという意味で「精密医療」の流れにも合致しています。

今回の研究チームは、「患者さん一人ひとりに合わせて脳の最適な刺激ポイントを探し、その人の脳が痛みを感じているときにだけ刺激を与える」ことで、これまで改善しなかった慢性痛にも効果があるかどうかを世界で初めて本格的に検証しました。

このように、痛み治療の世界は今まさに「体」から「脳」、そして「個性」へとパラダイムシフトが起きているのです。

この研究は、そうした最先端の挑戦のひとつだったと言えるでしょう。

「もう治らない」と諦めた慢性痛、脳に埋め込む電極が救った

「もう治らない」と諦めた慢性痛、脳に埋め込む電極が救った
「もう治らない」と諦めた慢性痛、脳に埋め込む電極が救った / 脳深部刺激療法(DBS)の参考画像。DBSでは脳の奥深くに電極が差し込まれることがあります/Credit:Tiago Matheus Nordi . Electronics (2022)

この研究では、慢性痛に長い間苦しんでおり、痛み止めや一般的な治療法が効かなかった患者さん6名が対象となりました。