この就業はもちろん高齢者自身の「生きるよろこび」に直結する。それは「生きがい」として、高齢者の日々の暮らしを支える。
生きがい研究の成果
20年間に及ぶ「生きがい」についての調査票による独自の比較調査研究によって、確認できた私なりの結論もある。
「生きるよろこび」の軸は個人の生活・生存・維持、およびその個人的目的の遂行過程と達成を喜ぶ心情にある。個人が置かれた事情は異なるので、最大公約数的な生きがい要因しか示せない。 高齢者の生きがいは他者から与えられるものではないが、日本には中央政府や自治体による高齢者の生きがい対策があり、条件を整えようとするこれらの政策努力は受け入れる。 宗教心が強い社会や個人では、信仰そのものが「生きるよろこび」となるが、日本の高齢者に関していえばそれは極端に少ない。 宗教的背景が乏しい日本の高齢者は、就業など世俗的な日常生活において自力で生きがいを得ようとする。
「生きがい」の手段性と表出性
時代の特性としての多様性を受け入れた社会的価値に照らして、日本の高齢者は「生きるよろこび」の下位領域として手段性(instrumental)を重視して、「生きるはりあい」、「自己実現」、「アイデンティティ」などを求める。ここにいう‘instrumental’は道具的で手段的な特性を示し、‘expressive’とは表出的で自己顕示的な特性を表わすとしたパーソンズ(1951=1974)の用語である。 加えて、「生きるよろこび」の復活には、表出性(expressive)に富む自己肯定的な社会活動への参加、家族との交流、健康づくり、友人交際、趣味娯楽活動、得意分野の継続が有効である。 「生きるよろこび」は、日常的な自己の評価と未来を遠望した際の自己評価との一致度で得られる。 日常的肯定としての高齢者の「生きるよろこび」は、active ageing、positive ageing、productive ageingなどの類似概念に接合可能である。
これら8項目の理解から、生きがいを「生きるよろこび」とだけ定義して、「安定した私生活の中で、自分を活かし、人生の意味を確認して、自由な関わりの社会関係をもち、未来への展望が可能だと感じる意識状態」とする観点を堅持しておきたい。