対象者の生の声を聴くことは『日本のアクティブエイジング』の事例研究法でも取り入れていて、精選した高齢者のライフストーリー18人分を掲載しているが、それは方言を交えた生の話のテープ起こしなどではない。
中野の方法は事例研究かもしれないが、その95%が単なるテープ起こしであり、理論化ないしは普遍化への道が示されず、何のために一人の人間の話を300頁分も印刷するのかが不明であった。
ライフヒストリーのテーマ別編成
それは生活史の実例ではあるが、何かの証明のエビデンスになるわけでもないから、私が本書に収録した方々のライフヒストリーには、(1)信仰と趣味が生きる張り合い、(2)加齢を楽しむ、(3)多忙な毎日は健康から、(4)家族が人生の支え、というようにテーマ別に編成した。
時も対象地も異なるが、聞き取りに要した数時間のノートとテープ起こしを丹念に読み直して、18人の対象者それぞれの貴重なライフヒストリーのダイジェスト版を作成して、匿名のかたちでそれらを掲載したのである。
大正期生まれの日本人によるアクティブエイジングの特徴
本文で紹介しえなかったインタビュー記録も参考にして、大正期生まれの日本人によるアクティブエイジングの特徴をテーマに合わせて整理しておこう。
友人:友人が最大の財産、自宅から外に出ないと、友人は得られない 家族:家庭が冷たいなら、新居も冷えてしまう、夫の死で地域のサークルが見えてくる、家族交流を優先すると地域交流は後回しになる、身体を動かして働きつつ、孫の成長を楽しむ、孫に会うのも旅行になってしまう 健康:元気な高齢者はますます多忙、身体を動かし、働くことが楽しい、淋しいから自分で忙しくする、働き好きで、病院は遠い世界だった、お金と健康と余暇が人生を楽しくさせる、多方面の興味が健康を促進する、仕事続きの人生では、筋目の日時まで記憶している 信仰:信仰が生きる張り合いを与える、信仰が能動的ライフスタイルの原点 趣味:俳句に打ち込む毎日、歳をとることで人生は悪くはならない、若い頃の老人像より老いた現在がずっとよい、高齢者の政治関心は強い、楽に歳をとれる社会システムを願う