その難問を解決したのが今回の研究です。
研究チームは「チオエステル」という硫黄を含む特別な化合物を使うことで、酵素の力を借りずにRNAへアミノ酸を選んで結合させることに成功しました。
しかも、この反応は生命が生まれたばかりの原始的な地球の環境に近い、穏やかな条件下(中性の水の中)で進んだのです。
これは生命が誕生したとされる環境を考える上で非常に重要な意味を持っています。
また、この「チオエステル」は、現在の生物の中でもエネルギーを運ぶ役割を担っています。
つまり、この分子は生命の起源から現在まで、ずっと生命活動のエネルギー源として働き続けてきたと考えられます。
こうした事実は、ノーベル賞を受賞した科学者クリスチャン・ド・デューブが提唱した「チオエステルワールド仮説」とよく一致しています。
ド・デューブの仮説によれば、初期の生命では硫黄化合物(チオエステル)がエネルギーを供給し、生命活動を支えていたとされています。
一方、生命の起源についての別の代表的な考え方に「RNAワールド仮説」というものがあります。
こちらはRNAが遺伝情報を保ち、同時に化学反応を起こす役割を果たしていたという説です。
今回の研究成果は、この「RNAワールド」と「チオエステルワールド」という二つの仮説を結びつける新しい可能性を示したのです。
つまり、遺伝情報を伝えるRNAとエネルギー源のチオエステルが協力することで、最初の生命が動き始めたのではないかというシナリオを、現実味をもって示したことになります。
このように、「生命誕生」というとても複雑な謎が、意外にもシンプルな化学反応の組み合わせで説明可能になるかもしれない、ということが今回の重要な成果なのです。
しかし、もちろん生命の誕生をすべて解き明かすには、まだ解決すべき重要な課題があります。
特に重要なのは、「遺伝暗号」と呼ばれる仕組みがどのようにして生まれたのかという問題です。