しかもこの反応は、私たちが日常的に生活しているような穏やかな室温と、酸性でもアルカリ性でもない「中性」というやさしい条件で進みました。

これまでの実験では、活性化したアミノ酸は水の中ですぐに壊れてしまい、目的のRNAではなく、アミノ酸同士がランダムにつながる副反応が起こりやすかったのです。

たとえば、アミノ酸同士が好き勝手につながると、目的と違うバラバラな物質ができてしまいます。

ところが、今回の方法ではそのような副反応はほとんど起こらず、RNAの末端にだけピタリと狙ったように結合しました。

これは、RNA自身が持つ独特の立体構造(分子の形)がこの反応を手助けしたためだと考えられています。

次に研究チームは、「RNAにアミノ酸をのせた分子(アミノアシル-RNA)」ができた後、それらのアミノ酸同士をどのように結合させるかにも取り組みました。

ここで「アミノアシル-RNA」とは、RNAの端にアミノ酸がくっついた状態の分子のことです。

RNAにのったアミノ酸が結合してタンパク質になるには、アミノ酸同士が「ペプチド結合」という特別な結合でつながる必要があります。

ペプチド結合は、アミノ酸同士がまるで“ひも”で結ばれるように連なることで、タンパク質の鎖が作られる現象です。

そこで研究チームは、反応が起こる環境にさらに工夫を加えました。

具体的には、「チオ酸」というこれも硫黄を含む酸性の分子と、酸化剤(反応を促す物質)を加えました。

すると、RNA上にのっていたアミノ酸同士が次々とつながり、「ペプチド」という短いタンパク質の原型ができあがりました。

つまり、細胞内のリボソーム(タンパク質合成工場のような分子マシン)という複雑な装置を使わず、シンプルな化学反応だけでタンパク質合成の仕組みを再現できることが示されたのです。

このような分子の世界の出来事は、肉眼ではもちろん見えません。

そこで研究者たちは「分子の重さや構造を精密に調べることができる特別な分析装置」(たとえばNMR:核磁気共鳴装置や質量分析計)を使い、実験でできた物質を正確に確認しました。