一方、チオエステルワールド仮説は、硫黄を含んだチオエステルという化学物質が、初期生命のエネルギー源になっていたという考え方です。

チオエステルは、生物が活動するのに必要なエネルギーを運ぶ大切な役割を担っていた可能性があります。

しかし、これらの仮説にも大きな課題が残されていました。

たとえば「RNAとアミノ酸をつなぐ反応」が、水がたくさんある自然の中ではうまく進まなかったのです。

なぜかというと、アミノ酸をRNAにつなげるためには「活性化」(反応しやすくするための工夫)が必要ですが、活性化されたアミノ酸は水の中ですぐに壊れてしまい、長く持ちませんでした。

そのせいで、狙った反応よりもアミノ酸同士が勝手につながってしまう「無秩序な重合」という副反応が多く起きてしまい、RNAとアミノ酸をうまく結びつけるのが難しかったのです。

こうした問題を解決するため、今回の研究では「高度な酵素を使わず、なおかつ水の中で安定して進むシンプルな化学反応」を探し出すことが大きな目標となりました。

すなわち、RNAワールド仮説とチオエステルワールド仮説の間を橋渡しできるような新しい化学反応を発見し、「生命が最初にどのようにしてタンパク質合成を始めたのか」という謎に近づこうとしたのです。

生命の最初の一歩、実験室でよみがえる

生命の最初の一歩、実験室でよみがえる
生命の最初の一歩、実験室でよみがえる / Credit:川勝康弘

研究チームは、まず「初期の地球にはどのような物質が存在したか」ということに注目しました。

約40億年前の原始地球には、現在の生物が持つような複雑な分子や酵素(たくさんの働きをする巨大な分子)はありませんでした。

そこで研究者たちは、「初期の地球に自然に存在した可能性が高いシンプルな分子」だけを使って、当時を再現する実験を計画しました。

ここで「分子」とは、いくつかの原子(炭素や水素など)が集まってできている、物質の最小の単位のことです。