教授:個々の信用金庫の話になるとナマナマしいから全体の話をしよう。
有価証券というとなんといっても国債だ。それを見てみると、保有状況はバラバラ。ほとんど保有しないで地方債中心のところもあれば、国債が大半の従来型もある。当面の問題は後者だ。単に国債を保有しているだけではなく残存期間が10年以上というのが多い。
現時点で、10年以上ということは20年、30年債が多いということだが、それらが多く発行されたのは財政危機が本格化した低金利時代だ。当時の10年債の金利はほとんどゼロで、金利らしい金利があったのは超長期債だけだからこれに飛びついたのだろう。数十年先まで低いとはいえ、金利を受け取れ、満期には元本が戻る。それは“安定”そのものだった。
ワタナベ君:でも金利が上昇し始めると安全・安心のそれは一転して凶器に変わる。この変身は恐いですね。
北海道のある信用金庫はついに売却を決断。20年国債の売却で85億円の赤字を計上。赤字決算は全天晴れ模様の中でかなり目立ちますが、早くやってよかった、でしたね。金利上昇はここからは長い傾向で、当分の間、ゼロ金利への再逆転はないのですから。
教授:長期国債を売らないで保有しているところは評価損になっているはずだけど、どうなの?
ワタナベ君:前年度と比べた有価証券評価額の差額が公開資料から計算できるのですが、すごいことになっています。260億円減ったところもあり、100億円以上が3金庫、20行の平均は125億4,000万円のマイナスです。この一年間について言えば、じっと持っていて大損したのです。
教授:問題なのは、これが決算には現れないことだ。株式会社と違うのです。満期保有だからというのが理由だ。今は地獄でも最後は天国みたいな話だけど、実は途中の地獄で大きな機会損失が生じている。長期債のワナだね。
ワタナベ君:地獄を見ているのは地方銀行・第二地方銀行も同じようです。地域銀行のコア業務純益は1兆9,582億円ですが、昨年度と比べた評価差額は2兆7,293億円ですから、これを勘案すれば利益は吹き飛んでいます。