ワタナベ君:図1のネット銀行というのは楽天銀行、住信SBIネット銀行、ソニー銀行、auじぶん銀行、大和ネクスト銀行、PayPay銀行が主要な6行ですが、少し前まで聞いたこともなかった名前です。彼らの出現で金融界の風景は大きく変わりました。

教授:預金は微増なんだけど、貸出はもっと少なく0.4%しか伸びていない。両者の比率を示すのは預貸率だけど、これがやたらに低い。北海道の20信用金庫のうち50%を超えたのは2つしかない。預金は20金庫合計で8兆7,000億円、貸出金は3兆6,400億円だから、全体でも50%を切っている。

ワタナベ君:教授もご存知のように、私は北海道のある信用金庫に勤めていたのですが、そこの預貸率は全国でも有名な程に低かった。当時の経営者は業界では有名な方で、それなりに考えてかなりの努力をされていましたが、なにせ地元に有力な大口の借り手がいない。かつて農業、漁業、林業という一次産業で繁栄した地域に本拠地がある信用金庫(地域金融機関)は、おしなべてそれらの没落で苦しんでいます。預貸率の低さはその苦しみの象徴です。

教授:私も君のいた信用金庫の理事長(故人)とお付き合いがあった。大皿に山盛りの蟹を食べさせてもらって、カラオケに行って“宗谷岬”を一緒に歌った。彼は現状をよく見ていたと思うし、尊敬すべき人だった。

営業地域の制約がある中で貸出を増やすのは口で言う程たやすくない。繫栄した時代から積もり積もった預金は地縁の縛りでなんとか守れるが、そうすると預貸率はどうしても下がる。もう仕方ないと割り切って有価証券の運用に軸足を移したのだろう。当時としては、これは決断だったと思う。業界の保守派からは批判されただろうけどね。

ワタナベ君:ある時期まではうまくいったのです。金利が下がっていけば有価証券の価格は上がる。また当時の国債の利回りは現在に比べればはるかに高く、じっと持っているだけでもかなりの収益になった。