また、こうした長期間の生存が特別な装置や新しい遺伝子など、特殊な仕組みによって可能になったわけではなく、もともと備わっている基本的な修復システムだけで実現されていたことも重要なポイントです。
これは、微生物が生きるために新しく何かを獲得したわけではなく、生命が本来もつ「傷を直す仕組み」をひたすら粘り強く続けていただけだということです。
例えるなら、特別な最新の修理道具を使うのではなく、家庭に元々ある道具を丁寧に使って、大切なものをずっと直し続けるようなものです。
今回の研究は、「生命とは、元々もっているシンプルな修復機能を使って、想像以上に長期間維持されうるものだ」ということを具体的に示した、非常に興味深い発見といえるでしょう。
しかしここで注意したいのは、この研究結果が「すべての生物が同じように長く生きられる」という寿命一般の法則を示したわけではないということです。
今回の研究が対象としたのはあくまでも「凍土」という非常に安定した極寒環境で、微生物がほとんど動けない状態に置かれた場合の話です。
通常、細菌などの微生物は、暖かく栄養が豊富な環境では急速に増殖して短期間で寿命を終えることが多く、私たちは「微生物はすぐに死んでしまう」と思い込みがちです。
ですが、今回の発見はそれとは逆に、「非常に安定した極端に寒い環境に置かれれば、微生物は活動を極限まで抑えて、数万年単位で生き続けることができる」というまったく新しい可能性を示しています。
つまり、生命の寿命は環境条件によって大きく変わるものであることが明らかになったのです。
さらに、今回の研究では、死んだ微生物のDNAだけでは、長期間にわたって維持されるDNAの量や質を説明できないことも分かりました。
研究チームが計算したところ、死んだ微生物のDNAは、たとえ凍った環境でも宇宙線などによって次第に壊れていき、100年程度でほぼ完全に分解されることが示されました。