さらに研究チームは、DNAがどれほど傷んでいるかを詳しく確かめるために、「修復前」と「修復後」の2種類のDNAを比較しました。
一般的に、DNAは長い時間が経つほど傷んでしまい、そのままでは遺伝情報をうまく読み取れなくなってしまいます。
そこで今回使われたのが、「PreCR™ Repair Mix」という特殊な酵素セットです。
これは、破れたり傷ついた古い本のページに専用のテープを貼って補強するようなもので、傷んだDNAを一度修復してから遺伝情報を読み取ることが可能になります。
この方法を使えば、死んだ細胞から出てきた細胞外のDNAは修復前後で大きく改善されるはずですが、生きている細胞がもつ細胞内のDNAは普段から自己修理されているため、修復前後でほとんど変わらないはずです。
つまり、修復によって「劇的に改善されるDNA」と、「ほとんど変化しないDNA」を比較することで、「死んだ微生物」と「生きている微生物」を区別することができます。
実験の結果、この予測は見事に当たりました。
ほとんどの微生物のゲノム(全遺伝情報)は修復後に大きく改善され、傷んでいた遺伝情報が明らかになりました。
しかし、驚くことに、6つのプロメテアルケオタ系統(微生物のグループ)だけは修復の前後でほとんど変化がなく、DNAが最初からあまり傷んでいなかったのです。
言い換えれば、この6つの系統のDNAは長い時間を経てもほとんど壊れておらず、「ずっと自己修復し続けることで生きてきた」可能性が非常に高いということです。
さらに、この6つのプロメテアルケオタ系統は、他のプロメテアルケオタと比べてDNAの量が7倍以上も多く見つかりました。
これは、まるで「氷の中で特に成功した長寿のグループ」と言えるでしょう。
では、この特別なグループには「長寿をもたらす特殊な遺伝子や仕組み」が備わっていたのでしょうか?
研究チームはこの点を詳しく調べましたが、意外なことに他の一般的なプロメテアルケオタとの間に特別な違いは見つかりませんでした。