順位決定に関わる脳の領域としては、「視床」だけではなく、「前帯状皮質」や「前頭前野」、さらには「眼窩前頭皮質(攻撃や積極性を伝える部分)」や「基底前脳(不安や抑制的な感情を伝える部分)」も重要です。

これらの複数の領域が、ちょうど電車が複数の駅を経由して目的地に情報を届けるように、協力して一つの行動を作り出しています。

このように脳が連携して働くことで、動物は自分の置かれた社会的状況に応じて、柔軟な行動を取ることができるのです。

さらに今回の研究結果は、これまでの理解とは異なる新しい事実も提示しました。

これまでの一般的な理解では、順位というのは「強い個体が攻撃的に振る舞うから勝ち、弱い個体は負ける」と考えられることが多かったのです。

しかし実験から分かったのは、実は「負ける側が怖気づき、戦意を失う」ことの方が、順位を決定する上でより重要だということです。

つまり順位は、「攻撃する側の強さ」よりも、「攻撃される側がどれだけ怖がり、防御的になるか」という「心理的な側面」の方が決定的な役割を果たしていたのです。

そしてもう一つ、脳の仕組みに関する新たな発見として、「前帯状皮質(不安を感じる脳領域)」と「前頭前野(やる気を起こす脳領域)」がシーソーのように逆の方向に働くことも示されました。

勝つときには前帯状皮質が静かになり、前頭前野が活発になる。

逆に負けるときには前帯状皮質が活発になり、前頭前野が静まる。

このように脳の中では、状況に応じて二つの領域が絶妙なバランスを取りながら行動を調整していたのです。

とはいえ、この研究はあくまでもマウスを対象にした基礎研究ですから、すぐに人間の行動や精神的な問題に応用できるわけではありません。

しかし脳の基本的な仕組みというものは、動物も人間も共通する部分が多いため、今回明らかになった仕組みが人間にも存在する可能性はあります。

実際に人間の社会でも、「地位」や「自信の有無」が心の健康や行動に影響を与えることはよく知られています。