他方、ウクライナにとっても「鉄壁の安全保障」は、国家存亡にかかわるロシアの脅威を低下させるのに重要なことです。ウクライナがNATOに加盟せずに、ロシアが納得できる安全保障を得ることが、停戦や和平の成立のみならず平和維持を左右することになるでしょう。
・犠牲第三に、指導者が高い代償を払わず停戦してしまうと、犠牲を抑えられると期待することにより、戦闘を再開しやすいということです。
ウクライナ戦争では、ウクライナとロシアの両軍が約140万人の死傷者を出しました。これは他の戦争と比較しても、かなり大きな犠牲です。たとえば、この戦争でのロシアの死者数は最大で25万に達し、その数は泥沼化したアフガニスタン戦争の15倍にもなります。
こうした莫大な犠牲は、とりわけロシアが戦争を再開することを抑制する力になります。ただし、両国が戦争に疲弊しきって止める段階にあるかどうかは不透明です。
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これまでに蓄積された国際関係の戦争終結研究は、ウクライナ戦争の終わり方や終わった後について、さまざまなことを私たちに教えてくれます。
戦争を考える際、重要なことは、政治指導者や国家を動かしているダイナミズムを理解することです。これは日々のニュースをどれだけ見ても、主要人物の動向をどれだけ追っても、政府からの発信をどれだけ集めても、直感的にはわからないでしょう。そうした目に見えない作用を理解するには、やはり理論が必要です。戦争終結に関する国際関係の理論は、私たちが、この問題を正しく考えることを助けてくれる頼もしいツールなのです。