彼女の言葉を借りれば、

「決定的な勝利は、おそらく次の戦争でどちらが勝つかという確実な情報を明らかにする。その結果、(停戦後の)和平はより永続的なものになる。一方、実現する可能性の高い結果が確実に判明する前に戦闘を停止してしまうと、戦争は再開する可能性が高くなるということだ」(pp. 77-78)。

この指摘は、ライター氏が重視した「情報の不確実性」と関係しています。

要するに、ウクライナ戦争の帰趨が誰にでもわかるほど明確でない状況では、情報の問題を打ち消す要因が働かないと停戦も成立しにくく、その後の和平も継続しにくいのでしょう。最悪のシナリオでは、この問題はウクライナが機能不全な残存国家になったときに解消されるのかもしれません。継続して停戦を擁護してきたリアリストは、これを恐れていたのです。

もし、そのときを待たずにウクライナ戦争の停戦を実現することが望ましいのであれば、関係各国はモスクワやキーウに現状に即した取引を実行するよう働きかけるべきです。

世界最強国アメリカの最高指導者が、ウクライナ戦争の和平に乗り出したことは、核大国ロシアとの紛争の火種を消すことにくわえて、この文脈でも理解できます。

・近接性

第二に、ロシアもウクライナも国家の生き残りを賭けて戦う近接国であることは、停戦の成立や平和の維持を難しくしているといえそうです。

ロシアはウクライナが西側の防波堤、とりわけNATO(北大西洋条約機構)に組み込まれることを国家存続への脅威とみなして、ウクライナ侵攻という「予防戦争」を始めました。したがって、ウクライナのNATO非加盟はロシアが戦争終結に動くかどうかの重要な要因でしょう。

ウクライナ戦争における「平和の追求」を目指してアラスカでプーチン大統領と会談したトランプ大統領が、その直後、「ウクライナのNATO加盟は絶対にダメです」と発信したのは、このような理由からでしょう。