まず研究チームは、「ISG15」という遺伝子が欠けている人の細胞が、なぜ多くのウイルスに対して重い症状が出にくいのかというしくみを調べました。

ISG15が働かないと、体内で免疫の“警報装置”が小さく鳴り続ける状態が保たれ、ウイルスが侵入してもすぐに反応できる体勢が整うと考えられます。

このような警戒状態には「ISG」と呼ばれる遺伝子群が関係しており、それぞれが「防御たんぱく質」を作る設計図になっています。

実際、ISG15が失われると60種類を超えるISGが活性化しますが、研究者たちはその中でもウイルスの増殖を広く抑えられそうな10種類に絞り込みました。

これらはウイルスが細胞に入る前・増える途中・外に出ようとする段階などで働き、さまざまなタイミングでウイルスの活動を妨げると考えられています。

次に、これら10種類の防御たんぱく質を一斉に細胞内で作らせるため、研究チームはmRNA薬という最新の技術を活用しました。

mRNAは細胞に「このたんぱく質を作ってください」と命令を伝える分子で、新型コロナのワクチンにも使われています。

チームは10種類の遺伝子ごとにmRNAを合成し、それらをまとめて「脂質ナノ粒子(LNP)」というナノサイズのカプセルに封入しました。

こうして作られた「10-ISGカクテル」は、ウイルス退治の専門家チームへ一斉に出動命令を送るような仕組みです。

このmRNA薬を使った最初の実験では、ヒトの培養細胞に薬を導入し、ベシキュロウイルス(VSV)、インフルエンザウイルスA型、ジカウイルス、ウエストナイルウイルス、そして新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などを感染させました。

10種類すべてを同時に作らせたときに最も強い効果が見られ、複数のウイルスの増殖が大きく抑えられました。

一方で、1種類ずつ使った場合には、たとえばMX1はVSVやインフルエンザに、IFI6はジカに部分的な効果を示しましたが、広い範囲には十分ではありませんでした。