一方で、細菌に対しては抗生物質という“万能型の薬”が使えることが多く、医療の現場で長年活躍してきました。

しかし、ウイルスはその姿形も仕組みも多様で、共通して効く薬を作るのは難しいと考えられてきたのです。

そこで今回のmRNA薬は、ウイルスの種類を問わず働く可能性をもつ「防御たんぱく質」を10種類組み合わせ、それらを短時間だけ細胞の中で作らせるという仕組みをとっています。

これにより、ウイルスが体に入ってくる前に“防御の態勢”を整え、一時的にでも広い範囲のウイルスに備えることができるのです。

この方法は、今後登場する可能性のある未知のウイルスや変異ウイルスに対しても応用できる柔軟な基盤(プラットフォーム)となるかもしれません。

特に注目すべき点は、このアプローチが「自然免疫(生まれつき体に備わっている防御機能)」の仕組みからヒントを得ているところです。

たとえば、インターフェロン(体内でウイルス感染に反応して出る警報物質)をそのまま投与すると副作用が出やすいとされていますが、このmRNA薬では、必要な防御たんぱく質だけを短時間・少量作らせることで、副作用のリスクを抑える設計になっています。

実際、細胞を使った実験では、強い炎症のサインや細胞死といった悪い反応は見られませんでした。

つまり指標上、余計な反応を増やさずにウイルスの増殖を抑える挙動が示されました。さらに、mRNAという技術はカスタマイズしやすい特長を持っています。

この研究で使われた「10種類の遺伝子」はまるでパーツのように入れ替えが可能で、将来的には流行しているウイルスの種類や狙いたい臓器(肺や腸など)に合わせて中身を調整できる可能性があります。

つまり、ISGカクテル(防御たんぱく質のセット)をそのときの状況に応じて最適化することで、オーダーメイドのようなウイルス対策ができるかもしれないのです。

もっとも、この技術はいまのところまだ研究段階にあり、人に使うには多くの課題が残されています。