(※他にもウイルス自身は生命活動をしていないので細菌のように毒で殺すという手も使いにくくなっています)

抗生物質のようなオールラウンドな薬が効かない点こそが、ウイルスという相手のやっかいなところなのです。

そうした中で、世界にはごく少数ですが「めったに風邪やインフルエンザで重い症状が出ない」という不思議な体質の人たちがいることが、医学研究によって明らかになってきました。

この人たちは「ISG15(アイエスジー・フィフティーン)」という免疫に関わる重要な遺伝子を生まれつき持っていません。

本来この遺伝子は、ウイルスと戦うときに暴走しがちな免疫の働きにブレーキをかける役割を果たします。

たとえばウイルスが体に入ると免疫は一気にスイッチを入れて攻撃を始めますが、やりすぎると自分の細胞まで傷つけてしまいます。

ISG15は、こうした“やりすぎ”を防ぐためのブレーキのような存在です。

ところが、このISG15が欠けている人ではブレーキがうまく働かないため、免疫は常に「ゆるやかな戦闘モード」を続けています。

ふつうなら微弱な炎症が体に負担をかけそうですが、実際にはこの人たちはインフルエンザやはしか、水ぼうそうなど多くのウイルスにかかっても重い症状が出にくいという傾向を示します。

体の中で常に低レベルの“ウイルス警戒モード”が作動しているイメージです。

この珍しい現象にヒントを得た研究チームは、「もしこの体質の特徴的な部分だけを薬の力で一時的に再現できたら、ウイルスに対してより強い備えを持てるのではないか」と考えました。

つまり、遺伝子がないことによって生まれる特別な状態を、ふつうの人にも薬で短時間だけ再現できる方法がないか――それが今回の研究の出発点です。

たとえるなら、ウイルスがやってくる前に体の中に強力な“防御の結界”を短時間張っておくようなものです。

この新しい発想こそが研究の目的となりました。

万能ウイルス防御を細胞と動物でテスト

万能ウイルス防御を細胞と動物でテスト
万能ウイルス防御を細胞と動物でテスト / Credit:Canva