Tensor Energy堀氏とレジル安藤氏が語る、FIP転換の現状と課題

** 安藤 ** :2012年のFIT開始から13年が経ち、買取期間の満了が迫る事業者も出てきています。堀さんの肌感では、買取期間満了前にFIP制度への移行(以下、FIP転)について考えている事業者の割合は増えていると感じますか?

** 堀 ** :正直なところ、FIT制度の恩恵を受けている現状では、FIP転をするという考えに至っていない事業者がほとんどだと感じています。しかし私の予想では、今後、FIP転の需要が急速に高まるのではないかと考えています。

** 安藤 ** :FIP転の選択肢をとる事業者にはどのような特徴が見られますか?

** 堀 ** :基本的には、FIT制度下での収益が頭打ちになっている地域かどうかが関係しています。現在、FIP転をしている、または検討している事業者は九州に多いですね。

** 安藤 ** :まさに、太陽光発電の導入量が多く、出力抑制が発生しやすい地域ですね。優先給電ルールでは、まず火力発電などの出力抑制が行われますが、それでも出力抑制が足りない場合、太陽光発電の出力抑制が行われます。これにより、FIT等の固定買取制度を利用している発電事業者は、想定通りの発電が行われず、当初計画していた収益が上がらない状態に陥ってしまいます。

** 堀 ** :最近では、北海道や東北でもFIT制度下での出力抑制が深刻な問題になりつつあります。これらの地域は、太陽光パネルを設置できる場所が多く、一方で電力需要が少ないという共通の課題を抱えています。 地域によっては、出力抑制によって収益が2〜3割減少することもあります。このような地域では、FIP転は非常に大きなメリットをもたらします。なぜなら、これまで出力抑制でカットされていた部分の収益化が図れるようになるためです。

** 安藤 ** :そうですね。FIP制度のもとで運用される太陽光発電所は優先給電ルール上、FIT制度の太陽光発電所よりも出力抑制が後回しになることから、FIP転を行うだけでも、出力抑制による損失を軽減できるほか、今後ルールが変更され出力抑制が増えるリスクにも備えられる可能性がありますね。

市場と向き合う覚悟。FITからFIPへ乗り換える壁

** 堀 ** :政府としては、再生可能エネルギーの更なる普及を目指してFIP転を推進したいというのが本音だと思われますが、しかし現状では、FIP転にもいくつか大きな課題があります。

** 安藤 ** :FIP転に際して、事業者にとっての主な課題はどのようなものでしょうか?

** 堀 ** :FIP転において事業者が抱える課題は、主に2つあります。

1つ目は、バランシング業務(※2)のノウハウが乏しいこと。FIT制度では、発電設備の普及に重きが置かれていたため、電気の売値は固定されており、バランシング業務も一般送配電事業者や小売事業者が担っていました。いわば、発電事業者はバランシング業務の責任を免除されていたと言えます。 FIP制度では、再生可能エネルギーを、電源自立した発電所として運用させることを目的としています。そのため、発電事業者自身が計画値同時同量のルールに則り、バランシング業務を担わなければなりません。 太陽光発電事業者の立場におけるバランシング業務とは、太陽光の発電量を予測して、予測した結果を基に発電販売計画を作成し、OCCTO(電力広域的運営推進機関)に計画提出を行うことです。太陽光発電のFIP転では、蓄電池を併設するケースもありますので、その場合には発電量予測に加えて、FIPプレミアムが最大となるような予測モデルも加えて、いつのタイミングで充放電させるかという部分も計画値に考慮する必要があり、これまでバランシング業務やエネルギーマネジメントの経験がない事業者にとってハードルは非常に高いです。

もう1つは、ファイナンス(資金調達)の見通しが不透明になることです。 FIT制度は電気の売値が固定されているため、事業計画の見通しが立てやすく、資金調達もしやすいというメリットがありました。しかし、FIP転することでその前提が大きく変わってしまいます。FIP制度では、プレミアムが変動することで、大きな収入増が見込める一方で、それを予見する難易度の高さから、蓄電池への追加投資のために、金融機関からの資金調達のハードルが高くなることが、大きな課題となっています。

※2 バランシング業務:再生可能エネルギー発電事業者が、発電計画を策定し、実際の発電量を計画値と一致させる「計画値同時同量(発電計画と実際の発電量を一致させること)」を履行する義務のこと。

「余剰再エネ」に価値を。FIP移行が導く、使いこなす再エネ時代の画像4
(画像=『Business Journal』より引用)