基本は、ロシア政府との親近性ではなく、むしろ法律違反行為に対する立ち位置を問題にするべきである。国際法違反をしてもいいのだというような言説は、やはり不穏な言説として注意喚起をするべき点があるだろう。

しかしいわゆる「反グローバル」的な立ち位置をとるがゆえにロシアの思想と共鳴しているように見える組織や、「ウクライナ支援を能登支援に振り替えるべきだ」という意見を持っている個人までを、親露的であるという理由で、取り締まり対象にできるかは、もちろん大いに疑問がある。

取り締まりたいのに取り締まれない場合に、第一の位相の疑惑の印象操作をもって、実態としての取り締まりにつなげていこうとする態度は、当然、邪道である。

古典的名著『自由論』を著した哲学者ジョン・S・ミルは、「その意見がいかに真理であろうとも、もしもそれが充分に、また頻繁に、且つ大胆不敵に論議されないならば、それは生きている真理としてではなく、死せる独断として抱懐されるであろう」と述べている。(岩波文庫『自由論』73頁)

学者層までが、真理の探究ではなく、敵対勢力の撃退あるいは取り締まりを目指した運動に熱を上げている状況は、自由主義社会の危機を示している。

これは冷戦終焉後の「自由民主主義の勝利」のイデオロギーに酔った「自由主義陣営」の欧米諸国の人々が、自由民主主義の原則を守っているというイデオロギーに溺れて、実態は気に入らない相手を駆逐して欧米諸国の覇権を守っているだけにしか見えない都合のよい二重基準の偽善的態度に陥り、現在の危機的現状を招いてしまっている国際情勢の反映でもあるだろう。

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