一方で、顔に見える物体の場合は、画像全体の「顔らしい形」(グローバルな構造)が、目に見える部分の影響を大きくしていたのです。

この違いを例えるなら、「目」は矢印で、「顔の形」はその矢印を拡大する拡声器のような働きをしている、ということになります。

本物の横目は、それ自体が強力な矢印のように機能します。

一方で顔に見える物体の場合は、顔全体の配置が「この部分が目ですよ」と強調しているため、目のように見えるパーツの影響力が強まるのです。

研究者たちはこの点において、顔っぽい物体において構成パーツが揃うことで、目のようなパーツに「社会的な矢印(視線)」としての意味を自動的に与え、注意の方向づけがより強くなる可能性があると述べています。

言い換えれば、顔っぽい配置があると、脳は“これはただの模様じゃない、もしかしたら誰かが見ているかもしれない”と考え始めます。

その瞬間、目のような部分の持つ「視線」の信号は、顔全体の構造という“拡声器”で増幅され、あなたの注意をグッと引き寄せてしまうのです。

【コラム】アニメキャラの大きな目

私たちがアニメやマンガのキャラクターを見ると、現実には存在しない顔なのに、なぜか強く引き込まれることがあります。今回の研究結果をもとに考えると、その理由の1つが「顔っぽい全体構造」と「大きな目」の組み合わせにあるのではないかと思えてきます。今回紹介した論文では、「顔らしい全体構造」があると、その中に含まれる“目のようなパーツ”が注意を引く効果を強めることが示されています。人の脳は、目・鼻・口の位置関係が顔らしい並びになっていると、それが実在の人間の顔でなくても「顔」として処理します。そして、この全体構造が“拡声器”のように働き、目の部分が持つ視線の情報をより強く感じさせるのです。

ここから先は、論文の知見を踏まえた推測です。アニメキャラの大きく描かれた目は、その形やコントラスト、視線の向きがより目立つため、注意を引きつける「信号の強さ」が格段に増します。さらに、顔全体の形が整っていること自体が、この目の効果を“拡声器”のように増幅します。その結果、大きな目はより「誰かに見られている」という社会的な意味を持ちやすくなり、視線や感情の情報が強く伝わる可能性があります。そしてこの仕組みは、現実の人間の顔では起こらないレベルの「視線の目立ちやすさ」と「感情表現の鮮明さ」を生み出せるのかもしれません。言い換えれば、アニメキャラの魅力はデザイン上の偶然ではなく、私たちの脳の顔認識と注意の仕組みを巧みに利用した“計算された効果”ともいえるでしょう。