さらに、顔に見える物体の画像を上下逆さまにすると、顔らしい配置が崩れ、注意を動かす効果が弱まりました。
本物の顔でも、逆さまや目だけを抜き出した画像では効果が弱くなることが確認されました。
つまり、「顔らしい形」があることで、目のような部分の注意を引く力が大きくなるのです。
最後に行われた比較実験では、注意を動かす力そのものは、顔に見える物体よりも本物の横目のほうが強いこともわかりました。
つまり、「もっとも強力な矢印」はやはり人間の横目だったのです。
この結果は、脳が「誰かの視線」を最も優先的に処理するよう進化してきたことを示しているといえます。
顔に見える仕組みを利用する新しいデザイン戦略

今回の研究では、「顔のように見える物」が私たちの注意をどう引きつけるのか、その仕組みを本物の顔と直接比べて調べました。
本物の顔でも、顔のように見える物でも、私たちは自然とその「見ている方向」に注意を向けてしまいます。
ただし、どちらも同じように見えるだけで、実は脳の中で動いている仕組みは違っていたのです。
本物の顔では、目の向きといった細かい部分(局所的な情報)が、顔のように見える物では、目と口のようなパーツの並び方(全体的な構造)が、それぞれ注意の方向を決めていることがわかりました。
たとえば、誰かが横目で何かを見ていれば、私たちもついその方向を見てしまいますよね。
それと同じように、顔に見える模様がこちらを向いているように見えれば、つい目が引きつけられてしまうのです。
こうした脳の反応には、進化の中で「危険を見逃さないようにする」しくみが関わっているかもしれませんが、残念ながら今回の研究ではその点までは深く調べていません。
発見されたことは、科学的におもしろいだけでなく、身近な生活にも役立つかもしれません。