写真4は、連載15回目の『格差不安時代のコミュニティ社会学』で紹介したように、29歳のオーギュスト・コントが飛び込み自殺を図ったルーブル美術館の裏側にあるポン・デ・ザール(芸術の橋)の風景であり、徒歩と自転車のみ渡れる。

写真4

これは定年退職後らしい男性が一人で読書している様子である。ジョギングをしている人とは対照的に、陽が燦燦とふりそそぐ中で読書する高齢者の背中から孤独感が伝わってきた。これらの写真を前にすると、個人主義社会での高齢者も自己責任による生き方を通すしかないと感じた。

軽犯罪に巻き込まれた

5回のパリ調査で3回の犯罪被害にあった。そのうち2回はルーブル美術館の中庭で、肩掛けのバッグを若いローラースケーターが後ろからひったくろうとした犯罪である。

幸いに2回ともに袈裟懸けだったので、それは未遂に終わったが、私はとっさに日本語で大声を上げていた。

列車内部での詐欺にあった

しかし、一度は完全な詐欺にひっかかった。2007年のパリ調査では、予定していた資料収集やインタビューが終わったので、最終日にジャンヌダルク火刑の地として知られているルーアンに行った。ルーアンはオペラ座近くのサンラザール駅から北西方面に位置しており、特急列車で1時間20分の旅である。

今はどうか知らないが、当時のフランス国鉄は改札口に駅員はおらず、自動改札機もなかった。窓口で切符を購入し、車内で車掌がチェックする。だからプラットホームには入場券なしで誰でも入れて、停車中の車両にも乗り込めた。

座席で発車を待っていたら、後ろから背中をたたかれた。アラブ系の顔をした少年と幼い子がいて、少年の方が‘Bonjour’と言って、図1のカードを手渡して、何やらフランス語で話しかけてきた。聞き取れなかったが、カードは読めた。

図1 ‘Aidez-moi’のメッセージカード(出典)金子、2011:51.

カードの内容