一方、J1リーグではFIFA(国際サッカー連盟)のVAR Light基準に基づき、4〜8台程度のカメラが設置されている。これは最低限の基準を満たしているものの、カメラ数や映像解像度、撮影角度などで欧州トップリーグとの差があるため、微細なオフサイドやゴールライン判定の正確性に影響を及ぼす可能性がある。
また、VARの運用には明確なプロトコルが存在し、原則として「明白かつ明らかな誤り」や「重大な見逃し」の疑いがある場合にのみ介入が行われる。ゴール、ペナルティキック、レッドカード、誤認(選手識別ミス)といった判定は、VARが自動的に映像チェックを行い、必要に応じて主審へ連絡しオンフィールドレビュー(OFR)を促す仕組みだ。したがって、グレーゾーンの判定すべてが自動的に介入されないわけではないが、主観的な判断が残るため、誤審のリスクは完全には排除できない。
Jリーグの審判人数不足とVAR導入コスト
J2・J3でVARが導入されていない最大の理由は、単に審判不足とVAR運用に必要な人材不足にある。Jリーグには2024年度時点で1級審判員として272人が登録されており、この数字は年々増加しているが、VARを扱える審判は半分にも満たないという。VAR運用には専門的なトレーニングが必要であり、現在の人数では全試合での運用が難しい状況にあるのだ。
仮にJ1で週10試合、J2で週10試合、J3で週10試合の計30試合でVARを運用するとした場合、1試合あたりVARとアシスタントVAR(AVAR)で2人の審判が必要になる。つまり、VAR関連の審判だけで合計60人以上が求められる計算だ。1節30試合の主審1人、副審2人、第4審判1人を含めた通常の審判数は120人であるが、VAR運用を加えるとさらに大幅な人員が必要となる。現状のVAR対応審判数では、これらすべてをフル稼働させるのは困難だ。