しかしながら、世界で200カ国近いユニット同士が相互に影響している「現象」は複雑であり、国家行動の計算が格段に難しくなるのです。また、理論が予測に失敗したからといって、その効用が否定されるわけでもありません。理論は過去を説明できるだけでも十分に価値があります。
くわえて、世界の事象が確率的に起こるのであれば、ファインマンが喝破するように、特定の理論が「予言できないのは、細部にわたる知識が不足しているためはありません」(前掲書、224頁)。このことはネオリアリズムにもあてはまります。
「美しさ」と「醍醐味(喜び)」は、どうしても科学的理論と無縁ではないように思えるのですが、いかがでしょうか。そしてウォルツが打ち出したネオリアリズムは、エレガントで美しく、科学研究の醍醐味が凝縮された国際政治の理論の代表であるならば、賛否はあるものの、それを謙虚に学ぶことが学術的に健全な姿勢でしょう。