実験ではペアの2人にいくつかの課題を行ってもらいました。

まずは自己紹介も兼ねたカジュアルな対話から始まり、協力して行う単語ゲーム、そして中立的な第三者に評価されるスピーチ課題まで、徐々に踏み込んだコミュニケーションを取っていきます。

最初の対話では「好きな食べ物や買い物をする店」などを話題にすることで、互いに相手の生活ぶりから社会階層をそれとなく感じ取れるよう工夫されていました(直接「年収はいくら?」と尋ねなくても、会話の端々から相手の暮らしぶりは伝わるものです)。

そのあと2人で協力してゲーム(言葉当てクイズ)をしたり、スピーチ課題に挑戦したりと、少しずつ仲を深める流れが用意されていました。

この研究が面白いのは、会話中に「心臓の動き」も調べていたことです。

もっと正確に言うと、「心室がギュッと縮んでから、大動脈という血管の弁が開くまでにかかる時間(PEP)」を特別な機械で測っていました。

このPEPが短くなると、緊張したり感情が高ぶっていたりすることを意味します。

つまり、「今この人はどれだけドキドキしているか」が体のサインとしてわかるのです。

また、会話中の挙動(はきはき話せているか、貧乏ゆすりなど落ち着きのない動作が出ていないか)もビデオ映像から専門家が評価しました。

さらに各タスクの後には、相手のことをどれくらい「好き」だと感じたか、どれくらい自分と「似ている」と感じたかについてアンケートに答えてもらいました。

こうしたデータを総合的に分析した結果、まず明らかになったのは、社会階層が低い人ほど、相手の体の反応に自分の体もよく反応していたということです。

相手の心臓がドキドキすると、自分の心臓も同じようにドキドキする――そんな風に、お互いの感情の波に「生理的に」合わせていたのです。

具体的には、低階層グループの参加者では会話中のPEPの変化が相手のPEPの変化とより密接に連動しており、まるで相手の感情の起伏に自分の心臓が寄り添うような状態になっていたのです。