④ 「老いはもろもろの力を減少させ、情熱を衰えさせる」(下巻:473)。放置すればそれしかないが、ベレンソンの言葉として引用された「人が60歳を過ぎて書くものは、まず二番煎じのお茶ほどの価値しかない」(同上:471)は印象的であった。しかし生きることそれ自体が創造ではなく、回想や追憶であれば、沈黙するよりもやはり出がらしのお茶でもそれなりの味はある。
多方面の関心
⑤ 「恵まれた老年をもつのは、多方面の関心事をもつ人びとである」(同上:535)。なぜ恵まれないかといえば、定年によって仕事を喪失したら、それに関連していた人間関係が無くなり、関心と情熱が薄れがちだからである。「無為が好奇心と情熱を衰えさせ」(同上:535)るのは万国共通である。しかし、好奇心の先には必ず仲間がいる。
⑥ 「ふつう老人たちはかれらの人生の空虚に対して、救われる手段をもたない」(同上:535)。無為は倦怠を生み、目的の欠如がますますそれを促進する。図3の「自立要因」とは真逆の状態がこれである。
⑦ 「老人は未来への足掛かりをもたないので、心が過去に向かい、心配に捉われている(同上:567)。これは構わないが、回想法により、「過去」からの生きる力も得られるからである。18回目になった本連載「縁、運、根」もまた、その事例として読んでいただければ幸いである。
⑧ 「現役でなくなった構成員(メンバー)をどう処遇するかによって、社会はその真の相貌をさらけ出す」(同上:639)。その通りであるが、ボーボワールが本書を書いた1970年時点では日本の高齢化率が7.1%だったから、1964年施行の年金制度と国民皆保険制度が機能していた程度であった。それから30年後に介護保険制度が作られ、日本でも「福祉社会」の姿が見えてきたのである。
介護の現状
2000年4月に施行された時、居宅サービスの利用者は97万人、施設サービスの利用者は52万人であり、4月における介護給付費は居宅サービスが618億円、施設サービスが1571億円であった。