50年農業を営んでこられた男性だったが、農業は素人ではやれないという持論を拝聴した。これは都市社会学を軸に少子化、高齢化、コミュニティづくり、地方創生を課題にしてきた私にとって、得難い経験であった。なぜなら、専門の農業従事者ならば、たとえば経験を活かしながらきちんとした「土壌設計」と「肥料設計」の知識と技術が不可欠だと話されたからである。
米作りにしても野菜中心の畑作にしても、この両者ができなければ、上手くいかないという結論には感心したという記憶が残っている。
2011年時点でも専業農家の世帯主の高齢化が進んでいる一方で、後継者難が顕在化していたが、きちんとした専門農業でなければ、この先やっていけないというお話だったのである。
日本一の長寿県の研究
さて、放送大学の仕事の7年前から 文科省の「科学研究費」により、「日本一の長寿県」の調査を始めていた。それで現地撮影はやらなかったが、その研究結果が揃っていたので、第15回目にその成果を講義で紹介した。表2のように男性長寿日本一は長野県男性、女性長寿日本一は沖縄県女性であったので、当初は両県に出かけていた。

表2 都道府県別平均寿命(2005年) (出典)厚生労働省「平成17年都道府県別生命表の概況」 平成19年12月20日発表。これは5年ごとに発表される。
長野県に限定
しかし、沖縄県の長寿の要因は個性が強く、そのまま日本全国に発信するには無理があると考えて、途中で長野県の高齢男女に限定した。まず、ライフスタイル面では長野が第一次産業県であるという特性が活かされて、長野県民男女の就業率が高く、高齢者の就業率が日本一を続けていた。これは図3で示した「働くこと」に該当する。
さらに明治期以来の教育県という伝統により、長野県では高齢者の学習意欲が高く、生涯学習講座や趣味娯楽への高い参加率が、健康生きがい要因の指標になっていた。