ただ、それでも最終的な目標である約400万個のDNA文字を持つ大腸菌ゲノム全体を一気に書き換えるのは困難でした。

そこで研究チームは「分割して組み立てる」という新しい戦略を取り入れました。

まず大腸菌のゲノム全体を、約100キロ塩基対(kb)ずつの38の断片に細かく分割しました。

各断片でコドンの置換を行い、それぞれの断片を人工的に合成しました。

これらの断片を一つずつ細胞に組み込み、置き換えに問題がある部分を改良しながら、最終的には全ゲノムを統合した一つの人工的な細菌を作り出すことを目指したのです。

ところが、いくつかの断片では、計画通りコドンを置換すると細胞が正常に増殖できないケースが再び現れました。

この問題を解決するために、研究者たちは新たな解析法を考案しました。

具体的には、「連鎖マッピング」という方法を使って、どの領域の変更が細胞の成長を邪魔しているのかを特定しました。

成長が遅くなった細胞と、元の細胞のDNAを比較して問題箇所を探し、そこで改めて置換するコドンの種類を変えるなど、細胞にとって負担の少ない設計に再調整しました。

このような試行錯誤を繰り返した結果、問題となっていた部分の大半が正常な設計に落ち着きました。

こうした改善を何度も積み重ねながら、38個の断片を徐々に統合し、最終的に人工ゲノムを一つの完全な大腸菌ゲノムとして組み立てることに成功しました。

出来上がった人工細菌は「Syn57」と名付けられました。

その名前が示す通り、この細菌は通常64種類あるコドンのうち7種類を削減し、57種類だけのコドンで生命活動を維持できるようになっていました。

このSyn57株では、約10万1千箇所のDNAの変更が必要でしたが、最終的に予定した変更の99.9%を達成しました。

また驚くべきことに、この人工細菌は遺伝子の変更にもかかわらず、実験室環境でゆっくりですが安定して増殖を続けることが確認されました。